プレスリリース
米国では、2018年農業法によって、THC濃度が0.3%以下のものをヘンプ、0.3%を超えるものをマリファナと区別しています。
一方、医療目的の大麻(薬用大麻)と、嗜好目的の大麻(嗜好用大麻)では、THCやCBD濃度がどのように違うのかについてあまり知られていません。
日本臨床カンナビノイド学会(事務局:東京都品川区)では、この疑問点を詳細に調査したレポートを本日5月27日に、当学会サイトにて仮訳を公表しました。
タイトル:米国における薬用および嗜好用大麻の効力マッピング
概要
大麻関連のオンライン検索は、特に薬局から情報を得た場合、薬用大麻に対する肯定的な態度と関連している。薬用大麻の主な使用理由は痛みであるため、薬局のウェブサイトからの情報は、痛み患者の大麻に対する姿勢を形成する可能性がある。
これは、大麻が神経障害性疼痛において低テトラヒドロカンナビノール(THC)濃度(5〜10%未満)で有効性を実証しており、嗜好領域で高い報酬を得ている強力な大麻(THC15%以上)とは対照的であることと関連している。痛みにおけるCBDの役割は明確ではないが、それは人気を得ている。
したがって、オンラインで広告されている薬用大麻の効力は、嗜好目的で広告されている大麻と同様であり、薬用大麻に対する誤解を生む可能性があるという仮説を立てた。
現在、合法的な大麻市場における広告の効能に関する知識が不足しているため、自分の症状のために大麻を使おうとしている患者を保護するために、オンライン広告に関する明確なポリシーを作成することが制限されている。
そこで、米国の薬局でオンライン販売されている大麻製品のTHCとCBDの含有量を評価し、製品の薬用としての適性を判断するとともに、合法的な薬用・嗜好用プログラムで提供されている製品の効力を比較した。薬局のウェブサイトから提供されたすべてのハーブ大麻製品のTHCとCBD濃度を記録し、州間または州内で比較した。西部4州(CA、CO、NM、WA)および北東部5州(ME、MA、NH、RI、VT)を対象とした。653の薬局で合計8,505の大麻製品がサンプリングされた。
大麻の薬用と嗜好用には明確な違いがあるものの,薬用プログラムでオンライン広告された平均THC濃度は,異なるプログラムを持つ州間,または同じ州内(COまたはWA)の薬用と嗜好用プログラム間で比較すると,嗜好用プログラム(21.5%±6.0)と同程度の薬用プログラム(19.2%±6.2)であった。
CBD濃度が低いと、THCの高い製品が伴っていた。薬用・嗜好用プログラムを問わず、大半の製品はTHCが15%以上であると宣伝されていた(製品の70.3%〜91.4%)。これらの記載濃度は、医療目的、特に慢性神経障害性疼痛の患者には適さないように思われる。
このような情報は、高活性大麻が痛みの治療に安全であるという誤解を招きかねない。このデータは、合法的な薬局の製品や違法市場の全国的な製品に含まれるTHCやCBDを実際に測定した報告とも一致し、これらの製品を摂取した患者が急性酩酊や長期的な副作用のリスクを負う可能性を示している。
本研究は、大麻に対する誤解を防ぎ、疼痛患者のリスクを軽減するための政策立案の根拠となるものである。
仮訳全文をご覧になりたい方はこちらのサイトへ
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=125981
本学会は、大麻草およびカンナビノイドに関する専門学会ですが、国際的な薬物政策の影響が大きいテーマであるため、今後もこのような世界情勢についての有益な資料の和訳および紹介に努めていきます。
なお、本学会が提供するすべての翻訳情報の内容は、学会としての意見表明ではありません。
図1 CO(コロラド州)およびWA(ワシントン州)の薬用(左側)および嗜好用(右側)プログラムにおけるTHCの含有量が異なる製品の割合。THC5%未満(青)、THC5%以上10%未満(紫)、THC10%以上15%未満(黄)、THC15%以上(緑)に分類。
<用語集>
Δ9-THC:
デルタ9−テトラヒドロカンナビノール。THCとも表記される。144種類ある大麻草の独自成分カンナビノイドのうち、最も向精神作用のある成分。いわゆるマリファナの主成分として知られている。痛みの緩和、吐き気の抑制、けいれん抑制、食欲増進、アルツハイマー病への薬効があることが知られている。
CBD:
カンナビジオール。144種類ある大麻草の独自成分カンナビノイドのうち、向精神作用のない成分で、てんかんの他に、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、神経性疼痛、統合失調症、社会不安、抑うつ、抗がん、吐き気抑制、炎症性疾患、関節リウマチ、感染症、クローン病、心血管疾患、糖尿病合併症などの治療効果を有する可能性があると報告されている。2018年6月に行われたWHO/ECDD(依存性薬物専門家委員会)の批判的審査では、純粋なCBDは国際薬物規制の対象外であると勧告された。
内因性カンナビノイド系:
内因性カンナビノイド系(ECS)は、内因性リガンド(アナンダミド、2-AG等)、それらのカンナビノイド受容体(CB1,CB2等)、および内因性カンナビノイドの形成と分解を触媒する酵素(FAAH、MAGL等)を含む脂質の複雑なネットワークである。内因性カンナビノイド系は、学習と記憶、感情処理、睡眠、体温制御、痛みの制御、炎症と免疫応答、食欲など、私たちの最も重要な身体機能の調節および制御を担っている。
2018年米国農業法による「ヘンプ」の定義:
「ヘンプ」という用語は、「大麻(学名Cannabis sativa L.)」の植物および、その植物のいずれかの部位(種子と全ての派生物、抽出物、カンナビノイド、異性体、酸、塩、異性体の塩を含む)であり、成長しているか否かにかかわらず、デルタ−9−テトラヒドロカンナビノール(delta−9 tetrahydrocannabinol)の濃度が乾燥重量ベースで0.3%以下であるもの」を指す。
日本臨床カンナビノイド学会
2015年9月に設立し、学会編著「カンナビノドの科学」(築地書館)を同時に刊行した。同年12月末には、一般社団法人化し、それ以降、毎年、春の学術セミナーと秋の学術集会の年2回の学会を開催している。2016年からは、国際カンナビノイド医療学会; International Association for Cannabinoid Medicines (IACM)の正式な日本支部となっている。2021年4月段階で、正会員(医療従事者、研究者)101名、賛助法人会員14名、 賛助個人会員27名、合計142名を有する。http://cannabis.kenkyuukai.jp/
日本の大麻取締法
我が国における大麻は、昭和5年(1930年)に施行された旧麻薬取締規則において、印度大麻草が≪麻薬≫として規制されてきた。第二次世界大戦後、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)により印度大麻草と国内の大麻草は同一だと指摘を受け、一旦は、大麻草の栽培等の全面禁止が命じられた。ところが、当時の漁網や縄などの生活資材に必要不可欠であり、国内の農家を保護するために大麻取締法(1948年7月10日制定、法律第124号)を制定した。医師の取り扱う麻薬は、麻薬取締法(1948年7月10日制定、法律第123号)となり、農家が扱う大麻は、大麻取締法の管轄となった。その後、化学繊維の普及と生活様式の変化により、大麻繊維の需要が激減し、1950年代に3万人いた栽培者が1970年代に1000人まで激減した。欧米のヒッピー文化が流入し、マリファナ事犯が1970年代に1000人を超えると、それらを取り締まるための法律へと性格が変わった。つまり、戦後、70年間で農家保護のための法律から、マリファナ規制のための法律へと変貌した。2018年の時点で、全国作付面積11.2ha、大麻栽培者35名、大麻研究者401名。この法律では、大麻植物の花と葉が規制対象であり、茎(繊維)と種子は、取締の対象外である。栽培には、都道府県知事の免許が必要となるが、マリファナ事犯の増加傾向の中、新規の栽培免許はほとんど交付されていない。また、医療用大麻については、法律制定当初から医師が施用することも、患者が交付を受けることも両方で禁止されたままである。