プレスリリース
日本臨床カンナビノイド学会(事務局:東京都品川区)は、2021年に大麻に規制緩和をした国と地域の調査結果を2021年12月29日の本プレスリースにて発表しました。2021年は、産業用12地域、医療用8地域、嗜好用10地域の各分野で規制緩和が進みました。
我が国においても、大麻取締法を主管する厚生労働省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課によって2021年1月から6月まで12名の有識者による「大麻等の薬物対策のあり方検討会」が全8回開催され、改正大麻取締法に向けた大きな動きがありました。
検討会のとりまとめ報告書では、(1)若者の大麻事犯急増に対応するための大麻使用罪の創設、(2)大麻及び大麻樹脂の医療価値を認めたWHO勧告の国連採択を受けての大麻由来医薬品の使用解禁、(3)茎と種子の利用が合法で、花と葉の利用が違法という現行の植物の部位規制からTHCによる成分規制への変更、(4)薬物事犯者の再乱用防止対策の強化の方針が示された(※1)。
本調査では下記の用語で統一して表記した。
医療用大麻:
大麻草を医療目的で使用するハーブ(生薬)療法の一種。大麻草に含まれる独特の成分「カンナビノイド」を抽出し、製剤化したカンナビノイド医薬品とは区別される。
嗜好用大麻:
大麻草を嗜好目的で使用すること。合法化した地域では、タバコやアルコールのように成人のみを対象として、課税管理する制度を採用したところがほとんどである。
産業用大麻:
大麻草に含まれ、向精神作用のあるTHC濃度が1%未満の品種を栽培し、そこから衣類、食品、化粧品、建材、製紙、飼料、敷料、自動車用品などの産業用途に使用すること。嗜好用や医療用のマリファナと区別するために、ヘンプ(Hemp)と呼ばれている。
なお、ルクセンブルグ、ドイツなどで嗜好用大麻の合法化法案が計画および提出されていますが、本リストである合法化した国と地域には含みません。
〇調査結果 21年12月29日現在
1月1日 世界アンチドーピング機関(WADA):
アスリートにおける大麻違反の処分期間を2年から3ヶ月に短縮
米国モンタナ州 嗜好用大麻合法化(米国13州目)
2月11日 タイ 医療用大麻の家庭栽培(6株まで)開始
3月1日 米国ニュージャージー州 嗜好用大麻合法化(米国14州目)
3月22日 米国 農務省(USDA)2018年農業法に基づく産業用大麻最終規則を正式に発効
THC検査の過失のしきい値を0.5%から1.0%へ引き上げ
3月31日 米国ニューヨーク州 嗜好用大麻合法化(米国15州目)
4月7日 ウクライナ 合成THC医薬品(ドロナビノール、ナビロン)、THC/CBD医薬品(ナビキシモルス)を合法化
4月7日 米国バージニア州 嗜好用大麻合法化(米国16州目)
4月12日 米国ニューメキシコ州 嗜好用大麻合法化(米国17州目)
4月21日 1961年国連麻薬単一条約「大麻植物及び大麻樹脂」のスケジュールIV削除を発効(※2)
4月26日 米国アイダホ州 産業用大麻合法化(米国50州目、22年1月から栽培可)
5月15日 スイス改正麻薬法施行 嗜好用大麻の臨床試験を合法化
5月20日 ザンビア 産業用大麻・医療用大麻の栽培と輸出を合法化
6月4日 モロッコ 産業用大麻・医療用大麻を合法化(アフリカで5カ国目)
6月22日 米国コネチカット州 嗜好用大麻合法化(米国18州目、※3)
6月28日 メキシコ 最高裁判所 嗜好用大麻の禁止は違憲とした判決(賛成8:反対3)
6月28日 ルワンダ 医療用大麻合法化(アフリカ6カ国目)
7月23日 コロンビア 産業用及び医療用大麻の製品(乾燥大麻を含む)の輸出を合法化
9月10日 日本 新型コロナウイルス感染症の影響等を踏まえた大麻栽培者免許事務について
(大麻栽培者免許に関する過剰規制の見直し通知)
9月30日 日本 厚生労働科学特別研究「難治性てんかんにおけるカンナビノイド(大麻抽出成分)由来
医薬品の治験に向けた課題把握および今後の方策に向けた研究」の研究成果物が公表
9月14日 チェコ共和国 産業用大麻 THC濃度を0.3%から1.0%に引き上げ、施行2022年1月1日
10月6日 米国カリフォルニア州 産業用大麻製品法(AB 45)を可決
人間及び動物を対象としたCBD等のカンナビノイド製品(吸引系製品除く)を包括的に規定
10月8日 ブラジル国家衛生監督庁(ANVISA)輸入を自動承認する大麻製品リストを公表
10月14日 パナマ共和国 医療用大麻合法化(中米で初めての国)
11月28日 アラブ首長国連邦 麻薬法の規制緩和 大麻製品の国内持ち込みは刑罰にならず没収のみ
11月24日 欧州農業共通政策(CAP)における産業用大麻のTHC濃度0.2%から0.3%に引き上げ
施行2023年1月1日
11月30日 コスタリカ 最高裁判所 産業用及び医療用大麻の生産を合法化する法案には違憲性がないと判断
12月2日 メキシコ 最高裁判所 THC濃度1%未満の産業用大麻の禁止は違憲とした判決
12月9日 タイ 麻薬法改正 大麻草の葉や茎を麻薬植物リストから削除
12月15日 マルタ共和国 嗜好用大麻を合法化(欧州で初めての国)※4
※1 大麻等の薬物対策のあり方検討会(図参照)
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-syokuhin_436610_00005.html
※2 1961年国連麻薬単一条約「大麻植物及び大麻樹脂」がスケジュールIVから削除されたのは、2021年1月22日の90日後に発効となった。
現在の規制物質リスト https://undocs.org/en/ST/CND/1/Add.1/Rev.7
※3
21年5月14日 米国ミシシッピ州高裁で医療用大麻合法化は違憲とした判決を下したため、合法化リストからは除外されている。
21年11月24日 米国サウスダコタ州最高裁で嗜好用大麻合法化は違憲とした判決を下したため、合法化リストからは除外されている。
※4よく知られているオランダは、非犯罪化国であって嗜好用大麻の合法化国ではない
2020年の規制緩和した国と地域
https://www.dreamnews.jp/press/0000228936/
2019年の規制緩和した国と地域
https://www.dreamnews.jp/press/0000207964/
2018年の規制緩和した国と地域
https://www.dreamnews.jp/press/0000187079/
<用語集>
Δ9-THC:
デルタ9−テトラヒドロカンナビノール。THCとも表記される。144種類ある大麻草の独自成分カンナビノイドのうち、最も向精神作用のある成分。いわゆるマリファナの主成分として知られている。痛みの緩和、吐き気の抑制、けいれん抑制、食欲増進、アルツハイマー病への薬効があることが知られている。
CBD:
カンナビジオール。144種類ある大麻草の独自成分カンナビノイドのうち、向精神作用のない成分で、てんかんの他に、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、神経性疼痛、統合失調症、社会不安、抑うつ、抗がん、吐き気抑制、炎症性疾患、関節リウマチ、感染症、クローン病、心血管疾患、糖尿病合併症などの治療効果を有する可能性があると報告されている。2018年6月に行われたWHO/ECDD(依存性薬物専門家委員会)の批判的審査では、純粋なCBDは国際薬物規制の対象外であると勧告された。
日本臨床カンナビノイド学会
2015年9月に設立し、学会編著「カンナビノドの科学」(築地書館)を同時に刊行した。同年12月末には、一般社団法人化し、それ以降、毎年、春の学術セミナーと秋の学術集会の年2回の学会を開催している。2016年からは、国際カンナビノイド医療学会; International Association for Cannabinoid Medicines (IACM)の正式な日本支部となっている。2021年4月段階で、正会員(医療従事者、研究者)101名、賛助法人会員14名、 賛助個人会員27名、合計142名を有する。http://cannabis.kenkyuukai.jp/
日本の大麻取締法
我が国における大麻は、昭和5年(1930年)に施行された旧麻薬取締規則において、印度大麻草が≪麻薬≫として規制されてきた。第二次世界大戦後、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)により印度大麻草と国内の大麻草は同一だと指摘を受け、一旦は、大麻草の栽培等の全面禁止が命じられた。ところが、当時の漁網や縄などの生活資材に必要不可欠であり、国内の農家を保護するために大麻取締法(1948年7月10日制定、法律第124号)を制定した。医師の取り扱う麻薬は、麻薬取締法(1948年7月10日制定、法律第123号)となり、農家が扱う大麻は、大麻取締法の管轄となった。その後、化学繊維の普及と生活様式の変化により、大麻繊維の需要が激減し、1950年代に3万人いた栽培者が1970年代に1000人まで激減した。欧米のヒッピー文化が流入し、マリファナ事犯が1970年代に1000人を超えると、それらを取り締まるための法律へと性格が変わった。つまり、戦後、70年間で農家保護のための法律から、マリファナ規制のための法律へと変貌した。2018年の時点で、全国作付面積11.2ha、大麻栽培者35名、大麻研究者401名。この法律では、大麻植物の花と葉が規制対象であり、茎(繊維)と種子は、取締の対象外である。栽培には、都道府県知事の免許が必要となるが、マリファナ事犯の増加傾向の中、新規の栽培免許はほとんど交付されていない。また、医療用大麻については、法律制定当初から医師が施用することも、患者が交付を受けることも両方で禁止されたままである。