プレスリリース
2021年1月に日本臨床カンナビノイド学会(事務局:東京都品川区)の理事である正高佑志医師らが実施した、大麻の健康被害の大規模実態調査結果が学術誌上に今月12月24日に公表されます。
調査は国立精神・神経医療研究センターと本学会理事が所属する一般社団法人Green Zone Japanの共同で、国内在住の違法大麻使用者を対象とし実施され、SNSを用いたオンライン・アンケート記載の呼びかけに4138件の有効回答が寄せられました。回答者は男性が82%、平均年齢は32歳であり、回答者の95%が日常生活において社会的な役割を果たしていました。
大麻によってもたらされる健康被害について、大麻依存症の恐れがある使用者は8.3%でした。妄想や嘔吐などの一過性の不快体験は38.5%に認められましたが、何らかの救護を必要とするものは0.1%に留まりました。また大麻使用を契機とした慢性の精神症状(幻覚など)を訴えたのは1.3%でした。この結果は、大麻の安全性が従来考えられているよりも高いことを示唆するものです。
近年、大麻をめぐる法規制は国際的に緩和傾向にあり、2020年には国連麻薬委員会は大麻の安全性評価を見直し、医療用途を公式に認めています。国内でも医療目的の大麻使用を限定的に認める方針が厚労省によって示されると同時に、大麻使用罪の創設を含む規制強化が検討されています。これに対し一部の有識者からは、逮捕などの司法介入による社会的なダメージが、大麻の健康被害を大きく上回っており、本人の更生に悪影響を与えていると懸念の声が上げられています。
今回の研究成果について、共同研究者であり国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦医師は「これまでわが国には大麻使用の健康被害に関する大規模調査が存在せず、精神科医療にアクセスした、きわめて稀少な、偏った症例報告をもってその健康被害が論じられてきた。もちろん、インターネット調査という方法論上の限界があるものの、わが国では画期的な大規模調査であり、現状では国内にこの限界を克服した調査が存在しない以上、本研究から得られた知見を無視することはできず、わが国の薬物施策の企画・立案にあたって重要な基礎資料としての価値がある」とコメントしています。
研究結果の詳細は12月発行の日本アルコール・薬物医学会雑誌に掲載の予定です。
表1:調査結果の概略
論文名:SNSを活用した市中大麻使用者における大麻関連健康被害に関する実態調査ー第1報ー
著者:正高佑志(研究責任者)、杉山岳史、赤星栄志、松本俊彦
掲載誌:日本アルコール・薬物医学会雑誌 56巻4号(通巻第288号)
発行:一般社団法人 日本アルコール・アディクション医学会
ISSN:1341-8963
日本臨床カンナビノイド学会
2015年9月に設立し、学会編著「カンナビノドの科学」(築地書館)を同時に刊行した。同年12月末には、一般社団法人化し、それ以降、毎年、春の学術セミナーと秋の学術集会の年2回の学会を開催している。2016年からは、国際カンナビノイド医療学会; International Association for Cannabinoid Medicines (IACM)の正式な日本支部となっている。2021年4月段階で、正会員(医療従事者、研究者)101名、賛助法人会員14名、 賛助個人会員27名、合計142名を有する。http://cannabis.kenkyuukai.jp/
日本の大麻取締法
我が国における大麻は、昭和5年(1930年)に施行された旧麻薬取締規則において、印度大麻草が≪麻薬≫として規制されてきた。第二次世界大戦後、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)により印度大麻草と国内の大麻草は同一だと指摘を受け、一旦は、大麻草の栽培等の全面禁止が命じられた。ところが、当時の漁網や縄などの生活資材に必要不可欠であり、国内の農家を保護するために大麻取締法(1948年7月10日制定、法律第124号)を制定した。医師の取り扱う麻薬は、麻薬取締法(1948年7月10日制定、法律第123号)となり、農家が扱う大麻は、大麻取締法の管轄となった。その後、化学繊維の普及と生活様式の変化により、大麻繊維の需要が激減し、1950年代に3万人いた栽培者が1970年代に1000人まで激減した。欧米のヒッピー文化が流入し、マリファナ事犯が1970年代に1000人を超えると、それらを取り締まるための法律へと性格が変わった。つまり、戦後、70年間で農家保護のための法律から、マリファナ規制のための法律へと変貌した。2018年の時点で、全国作付面積11.2ha、大麻栽培者35名、大麻研究者401名。この法律では、大麻植物の花と葉が規制対象であり、茎(繊維)と種子は、取締の対象外である。栽培には、都道府県知事の免許が必要となるが、マリファナ事犯の増加傾向の中、新規の栽培免許はほとんど交付されていない。また、医療用大麻については、法律制定当初から医師が施用することも、患者が交付を受けることも両方で禁止されたままである。