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ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所

小さいころから英語を学習すると日本語が中途半端になっちゃうって本当?

(@Press) 2022年08月31日(水)16時45分配信 @Press

「小さいころから英語を学ぶと、日本語も英語も中途半端になるから良くない?」
0〜6歳までを主な対象とした早期英語教育、早期バイリンガル教育に関しては様々な意見が交わされています。そこで、ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(※以下、IBS)<東京都新宿区 所長:大井静雄>では、保護者の皆様や教育関係者の皆様から寄せられる疑問に対し、当研究所員のポール・ジェイコブスが先行研究を基にわかりやすくお答えする動画を定期的に公開しています。今回は「小さいころから英語を学ぶと、日本語も英語も中途半端になるのか?」について動画の内容に一部説明を加えてご紹介します。

■ <今回の悩み・疑問>
「小さいころから英語を学ぶと、日本語も英語も中途半端になるから良くない?

<バイリンガル サイエンス研究所の回答>
・子どものころの第二言語習得が母語に悪影響を及ぼすといった説は、学術的な根拠が不十分である。
・二つの言語を混ぜて話すことは、能力不足ではなく、相手や状況に応じて効果的にコミュニケーションを図ろうとするバイリンガル特有の高度な言語能力である。
・バイリンガルに育つためには、もちろん、母語に触れる機会も十分に確保するなど、さまざまな配慮が必要となるが、過剰な心配により、小さいころからの外国語教育やバイリンガル環境をやめてしまう必要はない。

■ 小さいころから英語を学ぶと日本語が中途半端になると思われているのはなぜ?
「小さいころから英語を学習すると、日本語も英語も中途半端になってしまうので良くない」という意見は、1900年代半ばの古い研究結果から影響を受けています。それらの研究は学術的な根拠が不十分であると言われており、特に1920〜1960年代の研究は社会的背景の影響を受けたものが多く、研究手法に問題があったことが指摘されています。

第二次世界大戦後のアメリカでは、移民同化主義(移民も、英語だけを話すアメリカ人になるべきという考え方)が当時のバイリンガリズム研究にも影響し、「二言語バランス説」(人間が二言語を習得しようとすると、脳の許容力を超えるためどちらも十分に習得できないという説)が唱えられました。しかし現在は、バイリンガルの能力を肯定的に捉える考え方が主流です。
例えば、1990年代には言語学者のピアソン(Pearson, Fernandez, & Oller, 1993)によって「バイリンガルはモノリンガルよりも語彙の数が少ない」という通説が覆されました。なお、モノリンガルとは、言語を1つのみ習得している人のことで、日本語以外は話せない日本人もモノリンガルです。

■ 古い研究の問題点
ピアソンの研究と古い研究の違いはいくつかありますが、その一つは、バイリンガルとモノリンガルの比べ方です。例えば、「日本語と英語を話せるが、英語のほうが得意だ」というバイリンガルの日本語(不得意なほうの言語)を、日本語しか話さないモノリンガルの日本語と比較した場合、どうなるでしょうか?バイリンガルはモノリンガルよりも日本語の語彙量が少ない、ということは容易に想像できます。
古い研究では、この点について考慮されていませんでした。被験者のバイリンガルのグループに、英語を不得意とする子どもやスペイン語を不得意とする子どもが混ざっていれば、当然そのグループでは、英語もスペイン語も語彙量の平均値が低くなります。このような平均値をモノリンガルと比較すると、あたかも「英語もスペイン語も中途半端」に見える研究結果となるのです。

ピアソンは、バイリンガルが身につけている二つの言語がまったく同じレベルだとは限らない、ということに気づき、バイリンガルの得意なほうの言語でモノリンガルと比べました。すると、聞いてわかる語彙の数も、実際に使える語彙の数も、バイリンガルとモノリンガルで同じくらいであることがわかりました。
これは、ほんの一例ですが、「バイリンガルは両方のことばが中途半端」という考え方のベースになっている研究は、とても古く、いろいろな問題点があることがわかります。

■ 二つの言語を混ぜて話すのは、能力不足だから?
バイリンガル教育に興味のある方であれば、「コード・スイッチング」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。コード・スイッチングとは、例えば「好きな食べ物はみかんとappleです。」のように、バイリンガルが、日本語と英語を混ぜて話すことを指します。これは「日本語の語彙力が足りないからだ」と言われることがありますが、必ずしもそうではありません。日本語と英語を混ぜて話すことは、二言語の混乱や知識不足を示すものではなく、効果的にコミュニケーションを図ろうとするバイリンガル特有の高度な言語能力です。

例えば、1歳6ヶ月のバイリンガルの子どもを1年半くらい観察した研究(Lanvers, 2001)では、知っているはずの言語を使わずに、もう一つの言語で言う、ということがありました。例えば、昨日は「りんご」と言っていたのに今日は「apple」と言う(日本語の語彙を知っているのに英語を使う)というイメージです。さらに2歳を過ぎると、母親とドイツ語で会話しながら父親には英語で質問する、というように、どちらの言語を使うかは相手に合わせている様子が増えました。バイリンガルが言語を混ぜて話すのは、自分の主張を通すため、親が言った言葉をそのまま言うため、話題を変えるためと、効果的にコミュニケーションをとるための行動であると考えられています(Genesee & Nicoladis, 2009; Goodz, 1989; Lanvers, 2001)。

さらに、 近年の言語学で注目されている「Translanguaging」(トランス・ランゲージング)という概念では、二言語を混ぜて話す行動は、文字や音、構造や社会文化的背景など二言語間のさまざまな違いを乗り越えながら言語を理解し、二言語を巧みに使うことで効果的にコミュニケーションを図る能力として、極めて肯定的に捉えられています(Wei, 2018)。

■ 大切なことは「両方の言語とも大切だ」と思えるような環境づくり
このように、子どものころの第二言語習得が母語に悪影響を及ぼすといった説は、学術的な根拠が不十分です。また、二つの言語を混ぜて話すことは、能力不足ではなく、相手や状況に応じて効果的にコミュニケーションを図ろうとするバイリンガル特有の高度な言語能力です。
子どもがバイリンガルに育つためには、もちろん、母語に触れる機会も十分に確保するなど、さまざまな配慮が必要となります。しかし、過剰な心配をして、外国語教育やバイリンガル環境をやめてしまう必要はありません。
「どちらの言語も大切なんだ」と子どもが思えるような環境づくりを心がけることが重要です。

実際の動画はバイリンガル サイエンス研究所で公開中の下記記事をご覧ください。
■小さいころから英語を学習すると、日本語が中途半端になっちゃうって本当?
https://bilingualscience.com/movie/2022083001/

(参考記事)▼もっと詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
https://bit.ly/IBS-question-20181206
https://bit.ly/IBS-article-201812106
https://bit.ly/IBS-question-20190717
https://bit.ly/IBS-article-20190717

■ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所
(World Family's Institute of Bilingual Science)
事業内容:教育に関する研究機関
所 長:大井静雄(脳神経外科医・発達脳科学研究者)
所 在 地:〒160-0023 東京都新宿区西新宿4-15-7
パシフィックマークス新宿パークサイド1階
設 立:2016年10 月
URL:https://bilingualscience.com/

プレスリリース提供元:@Press

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