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テラヘルツ波を用いたプラスチックの素材識別と熱劣化診断の可能性を検証し、識別装置を開発

(@Press) 2022年04月01日(金)11時00分配信 @Press

芝浦工業大学(東京都港区/学長 山田純)デザイン工学科・田邉 匡生教授らの研究チームは、テラヘルツ波を用いてプラスチックの素材識別と劣化診断が可能な装置を開発しました。
プラスチックは利便性が高いですが、近年では廃プラスチックの海洋汚染など地球規模の問題として取り上げられています。世界的に注目を集めているSDGs(持続可能な開発目標)等の達成に向けては、プラスチック等のマテリアルを高度にリサイクルする技術を開発する必要があります。
本研究では、テラヘルツ波を用いてプラスチックの素材を識別するだけでなく、劣化判断を行い、リサイクル効率の向上や廃プラスチックのリサイクル性を検証しており、本日施行された「プラスチック資源循環法(通称プラスチック新法)」に対応するものです。


■ポイント
・廃プラスチックの適正処理とリサイクルは、持続可能な社会づくりのために取り組まなければいけない重要な課題
・テラヘルツ波を用いて非接触でのプラスチックの素材識別や熱劣化診断を実施
・JST大学発新産業創出プログラム・プロジェクト支援型「プラスチック製容器包装廃棄物の高度選別装置の事業化」の成果として、テラヘルツ波を利用した廃プラスチック識別装置を開発

画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/304216/LL_img_304216_1.jpg
図1. テラヘルツ透過/反射測定装置

■研究の背景
科学技術の発展とともに、加工が容易で低コストなプラスチックは普及しました。環境省が2019年に実施した一般廃棄物の組成調査結果では、プラスチック廃棄物は一般廃棄物と産業廃棄物のいずれにおいても大きな割合を占めています。世界のプラスチック廃棄物発生量の推移から現状のペースでプラスチックの生産と廃棄が続けば、2050年までに年間250億トンの廃棄物が発生し、そのうち120億トン以上を埋立処分せざるを得ないと予想されています。また、現在の技術には限界があり、リサイクルできないプラスチックは、費用をかけて埋立や焼却処理されている現状です。
日本では、2021年6月に廃プラスチックの削減やリサイクルを一層強化する「プラスチック資源循環促進法」が成立しており、この法律は2022年4月に施行され、すべてのプラスチック廃棄物を一緒に回収することになり、今までより「つくる責任つかう責任」が強く求められます。こうした背景やSDGs(持続可能な開発目標)を達成するためには、高度な「プラスチックのリサイクル技術」を開発し、社会に実装する必要があります。


■研究の概要
本研究では、テラヘルツ領域におけるポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)の透過吸収スペクトルを分析しました。ポリオレフィン系のPEとPPは、広帯域で透過率が大きいのに対して、PSは、2THzを超えるとほぼ透過しません。また、PEでは2.2THzに鋭い共鳴吸収ピークが見られ、PPには3.3THz付近に吸収ピークが観察されます。このような領域全体での吸収強度の違いや特徴的なピークの存在によりそれぞれの物質を識別することが可能となります。これは、テラヘルツ帯の誘電率(周波数分散)がプラスチックの素材で異なるためです。
また、テラヘルツ波による熱劣化診断の評価も行いました。本研究において、150℃で混錬させて作製したPEは赤外スペクトルにおけるC=Oのピーク強度変化から熱劣化によるカルボニル基が生成していることが分かり、2.2THz付近に観測される分子鎖間の並進振動に帰属される吸収ピークが熱処理により低周波数にピークがシフトしました。このことは、熱劣化の程度をテラヘルツのスペクトルから評価できることを示唆するものです。
さらに本取り組みでは芝浦工業大学が代表機関として、東北大学と静岡大学とともに、科学技術振興機構(JST)の大学発新産業創出プログラム・プロジェクト支援型(with / postコロナにおける社会変革への寄与が期待される研究開発課題への短期集中型)の支援をうけて行ってきた「プラスチック製容器包装廃棄物の高度選別装置の事業化」(事業プロモーターユニット:QBキャピタル合同会社)において、テラヘルツ波の特性を利用する廃プラスチックの識別装置を開発し、株式会社青南商事の協力の下、その性能を確認しました。本学は、主に装置の設計・製作を担当しました。

画像2: https://www.atpress.ne.jp/releases/304216/LL_img_304216_2.jpg
図2. PE、PP、PSの透過吸収スペクトル(厚さ:1.5mm)

吸収強度の違いや特徴的なピークが存在することが確認できる。

画像3: https://www.atpress.ne.jp/releases/304216/LL_img_304216_3.jpg
図3. 株式会社青南商事におけるプラスチック製容器包装識別実験の様子

■今後の展望
本研究では、テラヘルツ周波数帯における誘電率に基づく透過率/反射率の違いから、プラスチック素材毎のプラスチック識別が可能であることと、熱劣化プラスチックのテラヘルツ波を用いる非接触診断の可能性を確認することができました。
今後は、高度な材質選別装置としての開発を進め、プラスチック類のリサイクル率の向上とともに、高品質の再生プラスチックを生産することや、再生プラスチックの品質向上、環境汚染の削減、ならびにリサイクル費用の低減に貢献していきます。


■語句解説
テラヘルツ波
周波数として0.1〜10THz、波長は30〜3,000μmの領域における電磁波です。この領域は電波と光波の境界に位置するため、電波の透過性と光波の直進性を併せ持つ電磁波です。なお、長年、発生と検出が困難だった電磁波ですが、近年ではデバイスや機器が実用化され始めています。


■研究助成
本研究は2021年度に科学技術振興機構(JST)の大学発新産業創出プログラム・プロジェクト支援型(with / postコロナにおける社会変革への寄与が期待される研究開発課題への短期集中型)の支援を受けたものです。


■論文情報
著者:
芝浦工業大学 デザイン工学部 デザイン工学科 教授 田邉 匡生
芝浦工業大学 SIT総合研究所 プロジェクト研究准教授 大橋 隆宏
芝浦工業大学 理工学研究科 大学院生(機械工学専攻) 岩嵜 郁樹
東北大学 大学院国際文化研究科 教授 劉 庭秀
東北大学 大学院国際文化研究科 特任助教 眞子 岳
静岡大学 大学院光医工学研究科 教授 佐々木 哲朗
宮城県 産業技術総合センター 総括研究員(高度分析技術担当) 佐藤 勲征

論文名:テラヘルツ波を用いた持続可能な開発目標「つくる責任つかう責任」の達成
-プラスチック製容器包装のリサイクル効率向上を目指して-
掲載誌:フォトニクスニュース
ISSN :2189-6496


■芝浦工業大学とは
工学部/システム理工学部/デザイン工学部/建築学部/大学院理工学研究科
https://www.shibaura-it.ac.jp/

日本屈指の海外学生派遣数を誇るグローバル教育と、多くの学生が参画する産学連携の研究活動が特長の理工系大学です。東京都とさいたま市に3つのキャンパス(芝浦、豊洲、大宮)、4学部1研究科を有し、約9千人の学生と約300人の専任教員が所属。創立100周年を迎える2027年にはアジア工科系大学トップ10を目指し、教育・研究・社会貢献に取り組んでいます。

プレスリリース提供元:@Press

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