プレスリリース
第二言語習得を脳科学的に研究する尾島 司郎教授(横浜国立大学)は、「おうち英語」(家庭で子どもが英語に触れる環境をつくること)に取り組む親御さんや学校の英語教員向けにSNSを通じた情報発信をしています。そこで、ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(※以下、IBS)<東京都新宿区 所長:大井静雄>では、英語習得やおうち英語に関するさまざまなテーマについて尾島教授にお話を伺いました。今回は第1回目として、なぜインプットが必要なのか、そして、乳幼児期からインプットを始めることのメリットは何か、ということについて、公式サイトにて記事を公開しました。
画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/301816/img_301816_1.png
尾島 司郎 教授
<インタビューサマリー>
●大量のインプットがあって、かつ、そのインプットが頭の中に定着してくると、
自然とアウトプットにつながる。
●文をつくるためには、大量のインプットによって、文法知識だけではなく、
完成された文が記憶されていることも重要。
●小さいころから英語に触れる主なメリットは、インプット量を確保しやすい
時期であること。
第二言語習得がご専門で、英語習得の脳内メカニズムを解明し、その研究成果を教育に役立てることを目指しているという尾島教授。英語学習に成功している日本人の大人を対象に脳の計測を行い、そのデータから様々なことがわかってくるなかで、子どもの中にも英語の達人はいるのではないかと思っていたそうですが、見学した小学校の授業で英語を上手に話す子どもが、「おうち英語」をしていることがわかったとのこと。
言語学の教科書的には、テレビなどを通じてことばを身につけることはできないと言われていますが、現実にはDVDなどで外国語を身につけている子どもが一定数いるのではないかと思い、常識を覆されたような気持ちになったそうです。
「まずインプットから始めてその後にアウトプット」ということは多くの人が認識していると思いますが、なぜインプットが必要なのでしょうか?尾島教授に英語習得の仕組みについて詳しく伺いました。
■ インプットがアウトプットにつながるまでの仕組み
「基本的には、大量のインプットがあって、かつ、そのインプットが頭の中に定着してこないとアウトプットにつながりません。実際にインプットが定着してくると、人間は結局喋りたい生きものなので、自然と自分の中からことばが溢れ出すような感じで喋るようになります。」と尾島教授。「質の良いインプットは、インプットされたときの状況とセットになって覚えられているものなのですが、その状況が生じたときに今度は『この状況のときにはこういうふうに言っていたな』と自分の中のことばが思い出されてきます。これが、インプットがアウトプットを支える仕組みです。」と話します。また、「先生から教えられた文法知識だけでアウトプットをすることは、できなくはないけれど、難しいということですね。
また、母語が先に出てきて、どうしても不自然なアウトプットになります。」とのこと。
また、尾島教授は、「でも、たくさん英語を聞いていて、こういう場合はこういうふうに言うんだということが頭の中に定着している状態であれば、それを言えばいいだけです。ですから、文法学習ももちろん大事ですが、自分の中にどれだけ多くの表現がストックされているかということも大事です。」と話しています。
大量のインプットによって頭の中に英語表現のストックがたくさんある状態がアウトプットするために大事だということがわかりました。では、文法のルールについては、どのように学習されるのでしょうか?
「たくさんの英語に触れて、たくさんのパターンを知っておくこと、つまり、完成された文を知っておくことは、アウトプットの大きな手助けになります。文法を知っていれば、どんな文も生み出せますが、ネイティブ・スピーカーはこの方法だけで文をつくっているわけではありません。一つひとつの単語を素早く組み合わせて文をつくり出すこともできますし、たくさんの『こういうときにはこう言う』というパターンの記憶をもとにアウトプットすることもできます。」と尾島教授。
「日本人は、あまりにもインプットが少ないので、完成形がわかりません。正解がわからないまま、文法知識だけを使って文をつくるのはなかなか難しいと思います。」と尾島教授。「また、長い文をたくさん聞いておかないと、正しいイントネーションがわかりません。文には区切りがあるので、どこをまとめて言って、どこで止めて、どこのイントネーションを上げて、というような一つひとつの音のパッケージのようなものに単語を組み合わせて含めていかないといけないわけですが、文の全体を聞いたことがなければ、イントネーションをつくり出せません。」と尾島教授は話します。
続けて、「たくさんのインプットに触れて『自然な文はこういうものなんだ』ということを先に知っておく。そして、その完成形に向かって文をつくっていく。文法学習と同時に、このような学習方法をすることもアウトプットのために大事だということは、日本人のみなさんにお伝えしたいですね。」と言っています。
さらに、乳幼児期など早い段階からインプットを始めることには、どのようなメリットや効果があるのか、尾島教授に伺いました。
■ 子どものころから英語に触れるメリットは、インプット量を確保できること
「これまで研究してきた結果、子どもであっても、大人であっても、日本人にとってまず大事なことは、英語の接触量を確保することだと考えています。大人でも、接触量を多くすれば英語は身につきますが、その接触量を確保することが大人になると難しくなります。」とのこと。また、尾島教授によると「人生のどのタイミングでことばの習得に時間をかけていいのか、となると、社会的な責任ややらなければならないことが少ない時期が一番良くて、それが幼少期になるわけです。」ということで、幼少期には英語のインプットに多くの時間を費やすことができるのです。
■ まずは「こういう状況ではこう言う」というストックを増やすことが重要
今回の尾島先生のインタビューを通じて、なぜインプットが必要か、また、乳幼児期からインプットを始めることのメリット等、様々なことがわかりました。「英語を聞いて理解はできるけれど話せない」という日本人はたくさんいます。文部科学省による中学3年生・高校3年生を対象とした英語力調査(文部科学省, 2018)でも、「話す」・「書く」といった発信技能の弱さが浮き彫りになりました。すると、アウトプットの機会をいかに増やすかということに重点を置きたくなるかもしれません。
しかし、英語を話す必然性のある場面を用意しても、「英語で何て言うかわからない」と黙ってしまったり、黒板に書かれた英文を見ながら言うだけになってしまったりする子どもは一定数いるのではないでしょうか。
ここで一度立ち止まって見直さなければならないことは、そもそもアウトプットできるようになるためにはどのようなプロセスが必要なのか、ということです。尾島教授によると、大量のインプットがあり、かつ、そのインプットが頭の中に定着してくることで、自然とアウトプットにつながります。
さまざまな場面で英語に何度も繰り返し触れた結果、「こういう状況ではこういうふうに言っていたな」と思い出して口に出すことができ、文法知識だけではなくその記憶も頼りにして文をつくることができるようになるのです。このプロセスは、誰もが母語の習得で経験していることでもあります。それゆえ、インプットを重視することは、単語や文法の暗記が苦手な子どもたちもアウトプットできるようになるための鍵となります。
大量のインプットをいかに確保するか、という点は、日常生活や学校で英語に触れる機会が限られている日本の環境では大きな課題となりますが、乳幼児期からの「おうち英語」は、その解決策の一つになり得ます。人生において最も時間を確保しやすい時期であり、親の努力によって環境づくりができるからです。「おうち英語」の最も重要な価値は、より多くのインプットを子どもに与え、アウトプットを支える土台をつくることだと考えられます。
詳しい内容はIBS研究所で公開中の下記記事をご覧ください。
■<横浜国立大学 教育学部 尾島 司郎 教授>インタビュー〜
第1回:https://bit.ly/3IcoAqo
第2回は「効果的なインプットにするための4つのポイント」について記事を公開します。
■ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所
(World Family's Institute Of Bilingual Science)
事業内容:教育に関する研究機関
所 長:大井静雄(東京慈恵医科大学脳神経外科教授/医学博士)
所 在 地:〒160-0023 東京都新宿区西新宿4-15-7
パシフィックマークス新宿パークサイド1階
設 立:2016年10 月 URL:https://bilingualscience.com/
プレスリリース提供元:@Press