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プレスリリース
ビフィズス菌MCC1274がアルツハイマー病モデルマウスの記憶障害を予防 名古屋市立大学・道川教授によるビフィズス菌MCC1274の作用機序に関する論文がアルツハイマー病研究の専門紙に公開
認知症研究の有識者らを世話人とし、認知症の早期発見や予防とその対策を啓発する『40代からの認知症リスク低減機構(代表世話人:新井平伊 アルツクリニック東京院長・順天堂大学医学部名誉教授)』の世話人である、名古屋市立大学大学院医学研究科神経生化学分野・教授の道川誠らによる「アミロイドβ産生経路に与えるビフィズス菌摂取の影響の解明」(ビフィズス菌MCC1274の作用機序研究)論文につきまして、アルツハイマー病研究の専門誌である「Journal of Alzheimer's Disease」に2021年12月21日にPre-Pressとして公開されましたので、お知らせいたします。
■研究のポイント
ビフィズス菌MCC1274をアルツハイマー病モデルマウスに経口投与すると、
・記憶障害を予防しました。
・海馬でのアミロイドβ沈着やアミロイドβ産生が有意に低下しました。
・海馬でのミクログリアの活性化を抑制し炎症性サイトカインの産生が低下しました。
■研究成果の概要
近年、腸内細菌とアルツハイマー病が密接に関連していることが明らかになっています。ヒトならびにアルツハイマー病モデルマウスを用いた研究では、腸内細菌の組成(腸内細菌叢)の変化が認知機能に影響することが報告されています。また、いくつかのプロバイオティクス(下記*参照)をアルツハイマー病モデルマウスに摂取させると認知機能の改善が見られますが、プロバイオティクスが認知機能やアミロイドβ(下記*参照)タンパク質の沈着・産生、グリア細胞(下記*参照)の活性化などに影響する分子メカニズムは不明です。
今回、名古屋市立大学大学院医学研究科神経生化学分野の道川誠教授のグループは、ビフィズス菌MCC1274をアルツハイマー病モデルマウスに摂取させると、アルツハイマー病モデルマウスで見られる記憶障害が予防されることを明らかにしました。そのメカニズムとしては、ビフィズス菌MCC1274はアミロイドβ産生や沈着を低下させ、海馬でのミクログリア(下記*参照)の活性化を抑制し、その結果、炎症性サイトカイン(下記*参照)の産生を低下させることで記憶障害を予防することを見出しました。
*プロバイオティクス:乳酸菌やビフィズス菌など、一定量を摂取すると宿主に有益な影響を与える生きた微生物。
*アミロイドβ:アルツハイマー病病態を促進させる鍵分子であるアミロイドβは、アミロイド前駆タンパク質(APP)から2つのプロテアーゼ(β及びγセクレターゼ<タンパク質切断酵素>)で順次切断されることにより産生されます。一方、APPがαセクレターゼ(ADAM10)で切断されるとアミロイドβが産生されません。
*グリア細胞:神経細胞の生存や機能発現のための脳内環境の維持と代謝的支援を行う細胞集団。
*ミクログリア:脳内の免疫系を担うグリア細胞であり、活性化により炎症性サイトカインを分泌し、神経細胞にダメージを与えます。
*炎症性サイトカイン:主に免疫系細胞から分泌される、炎症を促進するシグナル伝達物質。
■研究の背景と目的
アルツハイマー病は、超高齢社会に突入した日本において増加する認知症の半数以上を占める神経変性疾患であり、65歳以降に発症率が増加する疾患です。20年以上かけて脳内にゆっくりとアミロイドβが凝集した老人斑が脳内に沈着し、その後、異常リン酸化したタウタンパク質が神経細胞内に蓄積されて認知機能障害が引き起こされると考えられています。このとき、脳内では神経細胞やシナプス(神経細胞の接続部)の減少に加えて、グリア細胞の活性化、炎症などが見られ、これらが相まって認知機能障害を引き起こしていると考えられます。
従ってアルツハイマー病発症前の長い期間において、もしアミロイドβの産生ならびにアミロイド沈着を抑制し、アミロイド沈着によって引き起こされる炎症を抑制するような生活習慣や食事などのアルツハイマー病を予防する因子が明らかになれば、真に有効な予防法となる可能性があります。
これまでに、ビフィズス菌MCC1274について、軽度認知障害が疑われる方を対象とした臨床試験において顕著な認知機能改善作用が確認されました。本研究では、ビフィズス菌MCC1274の作用メカニズムの解明ならびに医薬品用途の可能性を探索するために、アルツハイマー病モデルマウスを用いて研究を行いました。
■研究の成果
今回の研究によって、ビフィズス菌MCC1274をアルツハイマー病モデルマウスに経口摂取させたところ、脳内のアルツハイマー病病態の発症・進行が抑制され、記憶障害を予防することを明らかにしました。すなわち、(1)「ビフィズス菌MCC1274」経口投与群では、記憶障害が予防され(図1)、(2)海馬でのアミロイドβ沈着やアミロイドβ産生が有意に低下しました(図2)。しかし大脳皮質ではアミロイドβ沈着やアミロイドβ産生の低下は見られませんでした。
「ビフィズス菌MCC1274」によるアミロイドβレベルの低下メカニズムを明らかにするため、アミロイドβ産生に関わるアミロイド前駆タンパク質(APP)切断酵素の発現を検討した結果、(3)「ビフィズス菌MCC1274」投与群ではアミロイドβ部分を切断し、結果としてアミロイドβ産生を抑制する酵素であるαセクレターゼ(ADAM10)の発現が増加することが分かりました。さらに、(4)「ビフィズス菌MCC1274」投与群の海馬ではミクログリアのマーカーであるIba1(活性化ミクログリアで発現するタンパク質)陽性細胞数が減少し(図3Aと3B)、それによって炎症性サイトカインの産生も低下することが明らかになりました(図3Cと3D)。
以上をまとめると、「ビフィズス菌MCC1274」は、アミロイドβ産生と脳内炎症を抑制することによってアルツハイマー病モデルマウスで見られる記憶障害を予防すると考えられます。
■研究の意義
以上の結果は、ビフィズス菌MCC1274を摂取することでアルツハイマー病発症を抑制できる可能性をアルツハイマー病モデルマウスを使った研究で示したものであり、ビフィズス菌の経口摂取によってアルツハイマー病発症を予防できる可能性を示しており、社会的にも意義があると考えられます。現在、他の研究者による臨床試験も進行しており、ヒトにおいてもビフィズス菌MCC1274を摂取することにより認知機能低下の予防効果があるという結果が出てきておりますので、そのメカニズムを明らかにした点でも意義があると考えられます。
画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/298015/LL_img_298015_1.png
図1
図1:ビフィズス菌MCC1274投与が記憶障害を予防しました。3ヶ月齢アルツハイマー病モデルマウスにビフィズス菌MCC1274を4ヶ月間経口投与し、新規物体認識試験を行い、認知機能を評価しました。測定用ケージに同じ形をした物体2つ(ファミリア物体)を入れ、5分間それぞれの物体に対する探索時間を計測。24時間後1つだけ形の異なる物体(新規物体)に変えて、同様に探索時間を計測(A)。それぞれの物体に対する探索時間の割合(新規物体探索時間/ファミリア物体探索時間+新規物体探索時間)を“Discrimination index”として評価(B)。
画像2: https://www.atpress.ne.jp/releases/298015/LL_img_298015_2.png
図2
図2:ビフィズス菌MCC1274投与が脳内アミロイドβ沈着を抑制しました。3ヶ月齢アルツハイマー病モデルマウスにビフィズス菌MCC1274を4ヶ月間経口投与し、脳切片を用いてアミロイドβ抗体で染色しました。
画像3: https://www.atpress.ne.jp/releases/298015/LL_img_298015_3.png
図3
図3:ビフィズス菌MCC1274投与がミクログリアの活性化を抑制し炎症性サイトカイン産生を低下させました。3ヶ月齢アルツハイマー病モデルマウスにビフィズス菌MCC1274を4ヶ月間経口投与し、脳切片を用いてアミロイドβ抗体とIba1抗体(ミクログリアマーカー)で染色しました(A)。Iba1陽性細胞の定量化を行った結果、Iba1(活性化ミクログリアで発現するタンパク質)陽性細胞数が減少することが分かり(B)、さらに炎症性サイトカインであるIL-1β(C)とIL-6(D)のmRNAの産生も低下しました。
■論文タイトル
Probiotic Bifidobacterium breve prevents memory impairment through the reduction of both Aβ production and microglia activation in APP knock-in mouse
(アルツハイマー病モデルマウスにおいてビフィズス菌MCC1274の経口投与は、アミロイドβ産生とミクログリアの活性化を低下させることで記憶障害を防ぐ)
■著者
Mona Abdelhamid1, Chunyu Zhou1, Kazuya Ohno2, Tetsuya Kuhara2, Ferdous Taslima1, Mohammad Abdullah1, 3, Cha-Gyun Jung1, * and Makoto Michikawa1, *
Mona Abdelhamid1, 周 春雨1, 大野和也2, 久原徹哉2, Ferdous Taslima1, Mohammad Abdullah1, 3, 鄭 且均1, *, 道川 誠1, *(*責任著者)
1 名古屋市立大学大学院医学研究科神経生化学分野
2 森永乳業株式会社 基礎研究所
3 Department of Neuroscience, Mayo Clinic, Jacksonville, Florida, USA.
■掲載学術誌
学術誌名:Journal of Alzheimer's Disease
DOI番号 :10.3233/JAD-215025
https://content.iospress.com/articles/journal-of-alzheimers-disease/jad215025
(名古屋市立大学リリース)
https://www.nagoya-cu.ac.jp/press-news/20220119/
■「40代からの認知症リスク低減機構」WEBサイト
https://40ninchi-risk.org/
プレスリリース提供元:@Press