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独立行政法人日本スポーツ振興センター

20年にわたるトップアスリートの研究・支援の知見から生まれた『アスリートのためのトータルコンディショニングガイドライン』刊行までのストーリー

(PR TIMES STORY) 2023年10月26日(木)11時27分配信 PR TIMES

東京都北区、赤羽駅からバスで15分、「エイチピーエスシー」とアナウンスがあり降車すると、 ハイパフォーマンススポーツセンター(High Performance Sport Center:HPSC)の大きな施設群に囲まれます。HPSCは日本のトップアスリート強化の中核拠点であり、その中にある国立スポーツ科学センター(Japan Institute of Sports Sciences:JISS)は、2001年の開所以来、トップアスリートの国際競技力向上を掲げ、競技現場が抱える課題解決に向けた実践的な研究の推進とスポーツ医・科学、情報等による支援を行っています。


このストーリーでは、HPSCより刊行した『アスリートのためのトータルコンディショニングガイドライン』完成までの裏側についてお伝えします。


東京都北区西が丘の住宅街にあるハイパフォーマンススポーツセンター

ハイパフォーマンススポーツの知見をすべての人に知ってほしい 

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会以降の大規模国際大会として、2024年のパリから2032年のブリスベンまでオリンピック・パラリンピックの開催は決まっています。このような中、持続可能な国際競技力強化の体制づくりにはHPSCだけでなく、地域のスポーツ医科学センターや大学等と連携して取組むと同時にHPSCが蓄積した高度な知見を国民の皆様に広く伝える機会が必要であると考えました。


HPSCでは、世界一を競い合うレベルのアスリートが発揮する高度で卓越したパフォーマンスを「ハイパフォーマンス」、自身のウェルビーイングを維持するパフォーマンスを「ライフパフォーマンス」と定義しました。F1の世界ではマシン開発により向上した技術がやがて市販の量産車に取り入れられることがあります。HPSCも同様に、トップアスリートや競技団体が実践しているコンディショニング方法を、例えば学校部活動の現場で実践すれば、競技パフォーマンスの向上につながります。

また、スポーツ愛好家をはじめ多くの国民の皆様が実践することで健康保持・増進にも寄与することが考えられます。加えて、親が効果的なコンディショニングを実践でき、健康であれば、それが子に伝わり、将来的にセルフコンディショニングがしっかりできるアスリートになる可能性があります。

そして、アスリートにおいても健康で日常生活が良好であることは、優れたパフォーマンスを発揮するために重要です。つまり、ハイパフォーマンスとライフパフォーマンスは循環し、お互いに好影響をもたらす関係にあると考えています。


そのため、ハイパフォーマンス領域で実践されているコンディショニング方法をまとめたガイドラインを制作・発刊することに至りました。


ハイパフォーマンスとライフパフォーマンスの循環を説明した図

「コンディショニング」という言葉を再定義し、『アスリートのためのトータルコンディショニングガイドライン』を刊行 

清水和弘研究員は、HPSCが今夏に発刊した『アスリートのためのトータルコンディショニングガイドライン』の執筆・編集を担当しました。普段は、HPSCのコンディショニング研究グループ長を担い、トップアスリートのコンディショニングについて様々な角度から支援と研究を行っています。

また、2016年のリオデジャネイロオリンピック・パラリンピック競技大会では、日本代表選手が大会でハイパフォーマンスを発揮できるように、リオデジャネイロ現地でスポーツ医・科学、情報分野の高度なサポートを提供する、ハイパフォーマンス・サポートセンターの運営責任者を担当しました。


スポーツ医・科学の領域において「コンディショニング」という言葉が使われて30年余りとなります。以前は「コンディショニング」という言葉は、トレーニング科学の領域において、パフォーマンスを最大化させるためのトレーニング内容の組み立て方に限定され使用されていました。しかし、現在では、「コンディショニング」という言葉は広義に使用され、競技レベルに関わらず、よりよいスポーツ活動を行っていくための基盤づくりや健康に生活していくための基盤づくりといった、様々な意味合いも込められており、「コンディショニング」の定義が必ずしも明確にされないまま使用されていました。


最も重要なことは、アスリート自身がコンディショニングの知識・技能を備え、実践できることだと考えています。そのためには、監督やコーチ、トレーナーなどの専門家だけでなく、家族などを含めたアスリートを支えるすべての関係者(アントラージュ)が「コンディショニング」についての共通の認識をもつことです。そのためHPSCでは、「コンディショニング」を、「アスリートのハイパフォーマンス発揮に必要なすべての要因をある目的に向けて望ましい状態に整えること」と定義して発信することにしました。


生体試料を用いて分析している様子

トータルコンディショニングとは、アスリートの効果的なコンディショニングのために各エクスパートが協力・協調して連携を組み包括的な活動を行うこと 

HPSCでは書籍『アスリートのためのトータルコンディショニングガイドライン』を発刊しました。その中で、アスリートにおけるコンディショニングを前述のとおり定義したうえで、アスリートにおけるトータルコンディショニングを、「アスリートの効果的なコンディショニングのために各エクスパートが協力・協調して連携を組み包括的な活動を行うこと」と定義しました。


アスリートを支える各専門家は、それぞれの分野に関する高度な知識や技術、技能をもつ’エクスパート’になることが重要です。さらに効果的なコンディショニングのためには各エクスパートが協力・協調して連携を組んで一体化し、包括的な活動を行うことが非常に重要です。そのためには、各専門家は自身の専門分野の知識や技能だけでなく、他分野についても一定の理解が必要です。

また包括的な活動を行うためにも自身の分野以外の知識や技能をもつ人材(ジェネラリスト)の存在も不可欠であると考えています。ガイドラインで紹介しているさまざまなコンディショニングに関する知識や技術を組み合わせて活用することで、アスリート自身がセルフコンディショニングを行えるようになり、さらには、アスリートを取り巻くスタッフや家族などの関係者(アスリート・アントラージュ)の知識や技能も向上し、より適切な形でトータルコンディショニングの環境をアスリートに提供することにつながります。


アスリートにおける「トータルコンディショニング」を説明した図


※HPSCと大塚製薬株式会社が実施してきた、スポーツ医・科学の振興、国際競技力の向上の更なる強化に向けた共同研究・プロジェクト「Total Conditioning Research Project」の成果等をもとに作成。

執筆者との入念なコミュニケーションにより、実践的なガイドラインが完成

ガイドラインは全7章30節で構成され、44名のハイパフォーマンススポーツを支えるトップランナーの先生方にご執筆いただきました。編集していて最も大変だったのは、さまざまな専門領域の用語や考えの統一や定義化、表現の調整を行ったことです。

このような書籍の多くは、各章が独立していることが多く、多少のニュアンスの違いが生じることがあるのですが、本ガイドラインでは、読者の理解促進を図るため、各執筆者と何度もやりとりを行い、用語や表現の統一化に努めました。

また、実践的なコンディショニングの手法を紹介していただくにあたり、執筆者とディスカッションすることや、アイデア出しをさせていただくことも多々ありました。多くの先生方のご協力のもと、エビデンスに基づいた実践的なセルフコンディショニングのガイドラインができたと思います。


刊行間もない8月31日に行われた日本体育・スポーツ・健康学会第73回大会において、「HPSC が推進するアスリートのためのトータルコンディショニング」をテーマに、ガイドラインの考え方を紹介するセミナーを開催しました。定員100名を上回る参加者にお集まりいただき、このテーマの関心の高さを実感しました。


ぜひガイドラインを多くの皆様にご覧いただき、ハイパフォーマンススポーツで培った知見を広めていければと思います。

「アスリートのためのトータルコンディショニングガイドライン」について

https://www.jpnsport.go.jp/hpsc/study/conditioning/tabid/1850/Default.aspx


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