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学校法人東京農業大学

【東京農業大学】外来魚を探し出せ! 〜国外外来種カラドジョウを判別するDNAマーカーを開発〜

(Digital PR Platform) 2023年11月29日(水)12時00分配信 Digital PR Platform

外来魚を探し出せ!
〜国外外来種カラドジョウを判別するDNAマーカーを開発〜

ポイント
[画像1]https://user.pr-automation.jp/table_img/2209/79932/79932_web_1.png




研究の概要
 東京農業大学 生物産業学部 海洋水産学科の黒田 真道 助教、東 典子 助教、北海道大学 大学院 水産科学院の藤本 貴史 准教授、同大学の荒井 克俊 名誉教授らの研究グループは、海外から持ち込まれ日本国内に定着した国外外来種カラドジョウを判別するDNAマーカーの開発に成功しました。
 カラドジョウは、近年、日本各地で確認されている外来種です。ドジョウと同所的に生息している場所もあり、ドジョウへの影響が懸念されていました。ドジョウの保全に向けて、まずは国内におけるカラドジョウの分布状況を正確に把握する必要があります。また、カラドジョウとドジョウの雑種が存在する可能性も示唆されており、調査する必要があります。しかし、カラドジョウとドジョウは形態的に似ているため識別が容易ではなく、ましてや両親の中間的な特徴を持つ雑種を形態から識別することはほぼ不可能でした (図1)。
 そこで黒田 真道 助教らの研究グループは、カラドジョウを判別するDNAマーカーを開発し、簡易な方法でカラドジョウおよびカラドジョウとドジョウの雑種を検出できる方法を確立しました。

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背景
 最近、テレビ番組など多くのメディアを通して、「外来生物」という言葉をよく聞くようになりました。これは、本来の生息地から人間の活動によって異なる場所に移動させられた生物を指します。外来生物には、国外から持ち込まれたもの (国外外来種) と国内の別の地域から持ち込まれたもの (国内外来種) があります。2023年11月現在、環境省が作成した「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト」には、動物だけでも200種以上の外来種が掲載されています。外来種は、持ち込まれた場所に生息する在来種と生息場所や餌生物を巡る競争を繰り広げ、在来種の減少を引き起こす可能性があります。また、近縁の外来種の場合、在来種との交雑が生じることもあるため、在来種が持つ遺伝的な多様性や固有性が失われる危険性があります。在来種の保全に向けては、様々な対策が必要ですが、まずは外来種の生息状況を正確に把握することが不可欠です。しかし、在来種と外来種の見分けは、形態が似ていると間違うことがあります。また、遺伝的に近縁な場合は交雑を通して雑種が出現する可能性もありますが、それを形態で判別することはさらに難しくなります。
 ここから本研究の話となります。研究の対象は日本を除く東アジア原産の淡水魚、カラドジョウ (Paramisgurnus dabryanus) です。近年、日本各地で見かけるようになり、私たちに馴染みのある在来のドジョウ (Misgurnus anguillicaudatus) と同じ場所にも生息しています。ドジョウとカラドジョウは生息環境や捕食する生物が似ているため、競争が生じる可能性があります。また、両者が同じ水域に生息する場合、交雑により雑種が誕生するリスクがあります。一般的に、両親種が遺伝的に遠縁な場合は胚発生(2)初期の段階で異常を呈し、子孫は死んでしまいますが、近縁な場合、雑種子孫が生まれます。さらに、生存性雑種のなかには不妊になる両親種の組み合わせもありますが、カラドジョウとドジョウの雑種は生存性で、雌が産む卵は受精能力があることが先行研究から示唆されています。
 国内に生息するドジョウの遺伝的な多様性や固有性を守るためには、まずはカラドジョウの分布状況を知る必要があり、それには両者を正確に識別できることが大前提となります。しかし、カラドジョウとドジョウは形態的に類似しており、さらに両親の中間的な特徴を持つことが予想される雑種の場合、形態による判別がほぼ不可能でした。そこで、本研究ではカラドジョウが特異的に持つDNA中の反復配列(3)に注目し、PCR(4)による増幅の有無からカラドジョウとドジョウを識別するDNAマーカーの開発を試み、雑種の検出にも応用できることを確認しました。

研究手法
 国内で捕獲したカラドジョウからゲノムDNAを抽出後、制限酵素(5)を用いてDNAの断片化を行いました。断片化によって得られた反復配列領域を単離し、その塩基配列情報から、反復配列領域を増幅するプライマー(6)を設計しました。このプライマーを用いて、PCR後にアガロースゲル電気泳動を行うと、カラドジョウと雑種第一代では低分子側でラダー状、高分子側でスメアー状の電気泳動パターンを示しました (図2)。一方、ドジョウではPCR増幅が確認されず、両種の識別が可能であることが確かめられました (図2)。さらに、先行研究で既に開発されているドジョウ用のDNAマーカーと併用することで、カラドジョウと雑種も識別できました。
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研究成果
 本研究では国外外来種であるカラドジョウを識別するDNAマーカーの開発に成功しました。これまで形態から識別することが容易でなかったドジョウとカラドジョウを、PCRと電気泳動という、比較的簡易な方法で正確に識別する方法を確立し、この方法で両種の雑種を検出できることも確認できました。

今後への期待
 今後は、このDNAマーカーを用いて国内のカラドジョウ、およびカラドジョウとドジョウの雑種について分布状況を明らかにすることで、在来ドジョウの適切な保全に貢献することが期待されます。

論文情報
論文名:Development of a repetitive DNA marker for identification of the exotic large-scale loach introduced to Japan (日本に生息する国外外来種カラドジョウを判別する反復配列DNAマーカーの開発)
著者名:黒田 真道1, 東 典子1, 藤本 貴史2, 荒井 克俊2(1東京農業大学 生物産業学部 海洋水産学科,2北海道大学大学院 水産科学院)
雑誌名:Fisheries Science
DOI:https://doi.org/10.1007/s12562-023-01731-4
公表日:2023年11月2日 (木) (オンライン公開)

研究助成金
科学研究費補助金 (研究活動スタート支援 JP20K22593、若手研究 JP23K14011)

用語解説
(1)DNAマーカー:個体や種を識別するための目印として用いる、DNAの一部分。本研究ではカラドジョウから単離した反復配列を種判別用のDNAマーカーとして利用している。

(2)胚発生:受精卵から卵割、細胞分裂を経て生物の身体が作られる一連の過程のこと。

(3)反復配列:DNA中に高頻度で存在し、同一または類似した塩基配列の繰り返しで構成される領域。

(4)PCR:正式名はPolymerase Chain Reaction (ポリメラーゼ連鎖反応)。DNA中の目的の塩基配列領域を増幅する方法。本研究ではカラドジョウが特異的に持つ反復配列を増幅する目的で行った。

(5)制限酵素:特定の塩基配列を認識してDNAの切断を行う酵素の総称。制限酵素には多くの種類があるが、本研究ではDraIを用いて反復配列の単離を行った。

(6)プライマー:PCRで使用する一本鎖DNA。増幅したい塩基配列領域を挟むように2種類設計され、そこからDNA合成がスタートする。プライマーによって、増幅するターゲット領域が決定できる。


本件に関するお問合わせ先
東京農業大学 企画広報室
TEL: 03-5477-2650 / FAX: 03-5477-2804 / Email: info@nodai.ac.jp

関連リンク
水圏生産科学研究室
https://www.nodai.ac.jp/academics/bio/o_aqua/lab/2104/
黒田 真道 (クロダ マサミチ) KURODA Masamichi 助教
http://dbs.nodai.ac.jp/view?l=ja&u=100001373

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