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学校法人 名城大学

【名城大学】スイゼンジノリがつくる紫外線吸収物質を発見 〜天然由来の美容成分として化粧品分野への応用に期待〜

(@Press) 2023年10月20日(金)13時00分配信 @Press


【ポイント】
・スイゼンジノリの乾燥過程で生じる紫外線吸収物質「サクリピン」の発見 に成功。
・サクリピンがアンチエイジング効果(抗酸化活性、抗糖化活性)を示すことを実証。
・サクリピンの光異性化反応を発見。
【概要】
スイゼンジノリは、古くから日本で食用利用されているラン藻(シアノバクテリア)の一種で、九州地方の一部でしか分布が確認されていない日本固有種です 。環境省によって絶滅危惧 I 類に指定されており、収穫量が年々減少している希少種です。
名城大学大学院総合学術研究科の景山伯春教授 (分子生物学 の研究チームは、生産開発科学研究所、神戸薬科大学およびチュラロンコン大学と協力して、スイゼンジノリがつくる新奇な紫外線吸収物質を発見しました 発見 した物質「サクリピン」は、これまでにラン藻類で見つかっているマイコスポリン様アミノ酸などの既知の紫外線吸収物質とは構造が全く異なるものでした。サクリピンにはシス−トランス異性の関係にあるサクリピン A およびサクリピン B の2つの構造が存在することが分かりました。サクリピン A およびサクリピン B は日焼けや日焼けによる炎症を引き起こすUVA および UVB 領域の波長をよく吸収した上に、アンチエイジングに寄与する抗酸化活性・抗糖化活性を示しました。細胞毒性も認められなかっ たため、天然由来の美容成分として応用可能です。本研究では、スイゼンジノリの乾燥工程中にサクリピンが生じることや、光照射処理を施すことで起こる異性化反応によってサクリピン A をサクリピン B に変換できることなど、サクリピンの合成プロセスの一端も明らかになりました。
研究成果は2023 年 10 月 20 日 9 時(日本時間)に米国化学会が刊行する国際科学雑誌 「 Journalof Agricultural and Food Chemistry (電子版 」 に掲載されました。
自然界において、スイゼンジノリは環境変化の影響で 絶滅が危惧される状態になってい ますが、食用海苔同様に養殖が可能です。今回の発見 によって スイゼンジノリの 需要が増えることは 、養殖業や環境保全活動の活性化につながる慶事であり、絶滅回避につなが ることが期待されます 。


【詳細な説明】
1.背景
スイゼンジノリ(学名 Aphanothece sacrum 注1) は、日本固有の淡水性ラン藻(シアノバクテリア) 注2)です。 福岡県朝倉市を流れる黄金川 が現存する唯一の自生地だと いわれています (図1)。
このラン藻は、古くから食用利用されてきた歴史があり、江戸時代から続く「遠藤金川堂」では独特の乾燥方法を確立し、板状の乾燥ノリとして秋月藩に献上していました。現在でも高級食材として流通しています。また、スイゼンジノリがつくる多糖類は保水力に優れ、「サクラン」として化粧品などに応用されています。


画像 : https://newscast.jp/attachments/c8tl1VFJU3M5uYJeQLtB.png


光合成微生物であるラン藻は、太陽光と大気中の二酸化炭素をつかって様々な有機化合物をつくり出します。そのうち、 紫外線を吸収する物質は、サンスクリーン剤(日焼け止め)に配合可能な天然由来の美容 成分として応用可能です。 マイコスポリン様アミノ酸( MAA 注3) やシトネミンという物質がこれまでに 発見 されており、 MAA は既に化粧品原料として流通しています。私たちは、日本固有のラン藻であるスイゼンジノリに、このような物質が含まれているかを調べました。
2.研究内容及び本成果の意義
サクリピンの発見
本研究では、スイゼンジノリから 2 つの紫外線吸収物質を単離し、それらの化学構造を決定しました(図2)。これらの物質は、脂肪酸を前駆体とするオキシリピン( oxylipin )類 注4) の化合物で、スイゼンジノリの学名 Aphanothece sac rum と oxy lipin からサクリピン( saclipin A およびサクリピン B と名付けました。サクリピン A とサクリピン B はシス−トランス異性 注5) の関係にあります。ラン藻において、このような化学構造の化合物はこれまでに見つかっていません。 マイコスポリン様アミノ酸やシトネミンとは異なる新しいタイプのラン藻由来の紫外線吸収物質の発見は学術的重要性が高く、注目に値します。


画像 : https://newscast.jp/attachments/vZh6kvdqWs9ZHGpfRLH3.jpg


サクリピンはスイゼンジノリの乾燥処理工程で生じる
興味深いことに、サクリピンA, B は生のスイゼンジノリには殆ど含まれず、乾燥加工された製品に多く含まれることが分かりました。このことから、スイゼンジノリが乾燥ストレスを感知し、それに応答する過程でサクリピン A, B が生合成される ことを示しています。スイゼンジノリにおいてサクリピン A, B がどのような分子機構で環境ストレス応答に関与しているのかはまだ分かっていません。
サクリピンの生理活性
サクリピンA, B の吸収極大波長はともに 320 nm 付近で、日焼けや日焼けによる炎症の原因となる UVA および UVB 領域の波長をよく吸収することが分かりました。また、サクリピン A, B は、紫外線を吸収するだけでなく、アンチエイジングに寄与する抗酸化活性 注6) と抗糖化活性 注7) を示しました。抗酸化活性については、その活性が長時間持続することが明らかとなりました(図3)。また、抗糖化活性については皮膚の真皮の主成分であるコラーゲンとエラスチンの糖化を抑制する効果が確認されました(図4)。これらの結果から、 サクリピン A, B はスキンケアクリーム等への配合剤に適していると考えられます。ヒト皮膚由来の培養細胞に対し てサクリピン A, B が毒性を示さないことも確認されました。サクリピンは食品由来の成分なので、経口サプリメントとしての応用可能性も考えられます。


画像 : https://newscast.jp/attachments/jAKBUbqWf2rdSONJCMbG.jpg


画像 : https://newscast.jp/attachments/vxTH2VsFQOJM0OkcSLTj.jpg


サクリピンの光異性化反応
上述したサクリピン A, B の抗酸化活性と抗糖化活性の測定結果から、サクリピン A とサクリピン B で活性の程度が異なることが分かりました。抗酸化活性はサクリピン B の方がサクリピン A よりも高い活性を示しました。抗糖化活性では、コラーゲンに対してはサクリピン B が、エラスチンに対してはサクリピン A が、それぞれより高い活性を示しました。したがって、サクリピンを応用利用する場合には、用途によってサクリピン A とサクリピン B の比率調整が必要となります。この問題を解決する方法として、私たちはサクリピンの光異性化反応 注8) を 発見しました。この反応では、サクリピン A に光を照射することでサクリピン B に変換することができます(図5)。乾燥スイゼンジノリにはサクリピン A が9割程度と多く含まれています。今回発見した光異性化反応により、スイゼンジノリ中に含まれるサクリピン A に適当な光照射処理を施すことで、サクリピン A とサクリピン B を好みの割合に調節することができます。


画像 : https://newscast.jp/attachments/EmjjZG5FYrRnExw18kZQ.jpg


【用語解説】
注1
スイゼンジノリ
日本固有種のラン藻。江戸時代から高級食材として珍重され、秋月藩に献上された。環境省のレッドリストで絶滅の危機に瀕している種として「絶滅危惧 I 類」に分類されている。スイゼンジノリがつくる多糖類「サクラン」は、優れた吸水性を示し、化粧品などの産業分野で注目されており、応用利用されている。
注2
ラン藻(シアノバクテリア)
酸素発生型光合成を行うバクテリア。植物の葉緑体の祖先となったと考えられている。水域、陸域を問わず、地球上に多種多様なラン藻が広く分布している。
注3
マイコスポリン様アミノ酸( Mycosporine like amino acid, MAAラン藻、微細藻類、海藻などがつくる天然のサンスクリーン剤。これまでに、 60 種類を超えるMAA 類の化合物が報告されている。共通の基本構造にアミノ酸類が結合した化合物で、UV A,UV B 領域の波長を吸収するという特徴がある。
注4
オキシリピン
脂肪酸が酸化してできる化合物の総称。様々な生理活性を有することが知られているが、ラン藻においてはあまり研究が進んでいない。
注5
シス−トランス異性
化 学式が同じだが、性質が異なる化合物を異性体という。シス−トランス異性は、有機化合物中の二重結合を挟んで存在している置換基の位置の違いによって生じる。二重結合に対して主要な置換基が同じ側に結合しているシス形と、反対側に結合しているトランス形がある。サクリピン A はトランス型、サクリピン B はシス型である。
注6
抗酸化活性
活性酸素を補足して消去する活性を抗酸化活性という。動物は生命活動の維持のために酸素を必要とするが、酸素の一部は体内で活性酸素に変化する。活性酸素の蓄積は、細胞膜や蛋白質の変性につながり、老化 や様々な疾病に関与している。
注7
抗糖化活性
蛋白質の糖化を抑制する活性を抗糖化活性という。蛋白質と還元糖が結びつく糖化反応が進行すると、終末糖化産物( AGEs )が生成する。 AGEs の蓄積は、蛋白質の構造や機能の異常の原因となり、老化や様々な疾病に関与している。
注8
光異性化
光を吸収することで異性体を生じる反応。
【掲載論文】
雑誌名:
Journal of Agricultural and Food Chemistry
タイトル:
Identification of desiccation s tress inducible antioxidative and antiglycative ultraviolet absorbing oxylipins, saclipin A and saclipin B, in an edible cyanobacterium Aphanothece sacrum
(食用ラン藻 Aphanothece sacrum において乾燥ストレスによって誘導される抗酸化性・抗糖化性の紫外線吸収物質「サクリピン A およびサクリピン B 」の 同定)
著者名:
Yoshie Uchida, Takashi Maoka, Tanapat Palaga, Masaki Honda, Chisato Tode, Motoyuki Shimizu, Rungaroon Waditee Sirisattha, and Hakuto Kageyama
掲載日時:
2023 年 10 月 20 日 9 時(日本時間) に電子版に掲載
DOI:10.1021/acs.jafc.3c05152


【研究体制】
名城大学
大学院総合学術研究科 教授 景山伯春(かげやま・はくと)
大学院生 内田美重(うちだ・よしえ)
理工学部教養教育 准教授 本田真己(ほんだ・まさき)
農学部応用生物化学科 准教授 志水元亨(しみず・もとゆき)
生産開発科学研究所
食物機能研究室 室長 眞岡孝至(まおか・たかし)
神戸薬科大学
中央分析室 准教授 都出千里(とで・ちさと)
チュラロンコン大学(タイ)
理学部 微生物学科
准教授 ルンガルーン・ワディティーシリサッタ(Rungaroon Waditee Sirisattha)
教授 タナパット・パラガ(Tanapat Palaga)
【本件に関するお問い合わせ先】
・研究内容に関すること
名城大学大学院総合学術研究科 教授
景山 伯春(かげやま はくと)
Tel: 052-838-2609
Email: kageyama@meijo-u.ac.jp
・広報担当
名城大学渉外部広報課
Tel: 052-838-2006
Email: koho@ccml.meijo-u.ac.jp


総合学術研究科|学部・大学院|名城大学 : https://www.meijo-u.ac.jp/academics/g_env_human/


総合学術研究科がチュラロンコン大学との学術交流を実施 : https://www.meijo-u.ac.jp/news/detail_29150.html


総合学術研究科の景山伯春教授が洋書を出版 : https://www.meijo-u.ac.jp/news/detail_28891.html



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