1. 氏名だけでも個人情報であるが、名字(姓)のみでは個人情報ではない。
2. 同性同名が多い氏名は個人情報ではない。
3. 氏名だけでは個人情報ではないが、生年月日など他の情報と容易に照合することで特定個人を識別できる氏名が個人情報にあたる。
【答え】
1. ○
2. ×
3. ×
【解説】
1.個人情報の定義
もう1度、「個人情報の保護に関する法律」第2条第1項に定める「個人情報」の定義を確認しておきましょう。
この定義で、一番重要なのは「特定の個人を識別することができるもの」という部分です。「個人情報」を簡単に言うなら「特定個人の識別情報」ということになります。 さて、「氏名」だけの情報で特定個人が識別できるのだと言い切ってしまって本当にいいのでしょうか。その識別性の判断がちょっと甘いのではないかという意見も十分に説得力があるようにも思います。
2.氏名の法的保護
「氏名」には、「個人を他人から識別し特定する機能」があります。たとえ同性同名がいても社会的には、多くの人が氏名で呼びかけ、また、氏名によってその本人を識別して普通に生活しています。法律はこうした人々の生活関係を基礎に法的な評価をしているわけです。個人情報保護法で求める「識別」性の程度は、こうした社会的な意味において判断されています。コンピュータ処理におけると同程度の厳密性をもって、一意に特定されなければならないという意味ではないのです。
仮に職場に同性同名の人がいて別の愛称で呼ばれていたとしても、本人にとって「氏名」はかけがえのないものだろうと思います。人は、人格を有する一人の個人です。人の「氏名」は「人が個人として尊重される基礎」であり、「人格権の一内容を構成するもの」であるという側面を有しています。したがって、「氏名を正確に呼称される利益」が侵害されたときは、状況によっては損害賠償(民法709条)を請求することもできるのです。このことは、最高裁判所の判決でも明らかにされています(最判昭和63年2月16日民集42巻2号27頁)。
個人情報保護法は、個人情報が個人の人格尊重の理念の下に慎重に取り扱われるべきものであることを理念としています(3条)。個人情報保護法の保護対象(「個人情報」)に、この「氏名」を含めることは(たとえ「氏名」のみであっても)、十分に理由のあるところだというべきでしょう。
特定個人の識別という文言を国語的に厳密に理解して、「氏名」のみでは個人情報にあたらないと解すべきだと主張するのは、法的な解釈としては、いささか一面的で硬直的な感じがします。また、いわゆる過剰反応の問題については、その原因を探り、また別のアプローチで解決を図るべきでしょう。本件の解釈にその解を求めるべきではありません。
参考文献:
山野目章夫編『ブリッジブック先端民法入門[第2版]』(信山社、2006年)12頁
鈴木 正朝(すずき・まさとも)
新潟大学法科大学院 教授
1962年4月生まれ。
中央大学大学院法学研究科博士前期課程修了 修士(法学)、情報セキュリティ大学院大学博士後期課程修了 博士(情報学)。専門は情報法。
ニフティ(株)を経て、現職。この間,山口大学,京都女子大学等の非常勤講師、(独)メディア教育開発センター客員教授を兼任。学外活動として、情報ネットワーク法学会理事、経済産業分野個人情報保護ガイドラインやJISQ15001の作成やプライバシーマーク制度の創設にかかわる。
主著は『個人情報保護法とコンプライアンス・プログラム』(商事法務)岡村久道弁護士との共著『これだけは知っておきたい個人情報保護』(日本経済新聞社)は、 2005年のベストセラーとなる。その他著書論文多数。
ホームページ:https://www.rompal.org/
[イラスト]
加藤 豪(かとう ごう)
大阪府出身。ユーモアを含んだ勢いとコントラストの強いカラーのイラスト、人の心理をテーマにしたちょっとシュールな4コマ漫画、短編等を制作しています。