プレスリリース
認定NPO法人じゃんけんぽんが運営する居場所の一つがつながる農園です。
つながる農園とは、「地域の方たちと安心できる居場所を作っていきたい!」という想いから生まれた、青空の下にある居場所です。
色々なつながりが優しい未来につながっていく、何もしなくてもいていい場所、誰もが輝ける場所、そんな居場所を目指しています。
素人農園のはじまりです
つながる農園は、2020年7月から活動を開始しました。まもなく4年目をむかえます。
農園を始めるにあたり、まずは、地域の方との意見交換会からスタートしました。地域の方に積極的に関わっていただきたいと考えたからです。
中心になって農園を担当するのは、じゃんけんぽんの介護支援専門員と作業療法士です。これまで畑仕事などしたことがなく、県の農業大学校で家庭菜園を楽しみたい人のための講座を受講しただけの素人菜園ですから、誰かに助けてもらったり教えてもらったりしながらの手探りの畑づくりになります。
でも、それが私たちの強みになると考えました。
地域に受け入れてもらい、地域の人に先生になってもらったり、手伝ってもらったりするには、知らないことだらけの方が良いのです。
そんな手探りの素人農園でしたが、畑を始めた翌月には地域の方や介護施設の利用者さんとともに初めてのイベントを行うことができました。それ以来、毎月1回程度のイベントを開催し続けています。
参加者の中に変化が
つながる農園のイベントには、この3年間で延べ1000人を超える方が参加してくださいました。そして、最初の頃は、地域の方が農園に足を運ぶのはイベントの時だけでしたが、徐々に日常的に通ってきてくださる方が増えてきました。
ほとんど毎日のように来てくれている70代の斎藤さん(仮名)は、ある日「家にいるとあまり何もしないから何か手伝えることはないか」と、ふらっとじゃんけんぽんに来てくれたことが始まりでした。畑仕事などもあると伝えたところ、初めのうちはイベントの日に顔を見せてくれていましたが、そのうち徐々に平日も来てくれるようになりました。
例年、8月から9月にかけて白菜の種をまきます。
昨年も斎藤さんと一緒に白菜の種まきをしましたが、どうにもうまくいきませんでした。今シーズンはどのように播こうかと相談したところ、「インターネットと動画をみてみたよ」とあれこれ調べていろいろな提案をしてくれました。
そして、ご自分で深めのトレーを用意してきてくれ、一緒に白菜の種をまきました。その後の世話も斎藤さんの担当になりました。高温になる日中の水やりは、苗をゆでることになってしまうため朝のうちに水やりをするのがいいだろうと、ほぼ毎朝6時にきて水やりをしてくれました。
今年の白菜は見事に育ち、2kgを超える立派な白菜もできています。
斎藤さんは、日常的にスマートホンも使用し、インターネットを活用して野菜の育成方法などを研究してきてくださいます。最近はついにSNSもはじめられました。
ご自身で主体的に農園と関わってくださる斎藤さんの姿は、私たちが農園を作る時に、いずれこうなってくれたらいいなと思い描いていた、地域住民主体の参加型居場所のあり方なのです。
おじいちゃんがたくさんいるんです
30代の山本さん(仮名)とそのご家族は、1年ほど前からつながる農園の一画を使って畑を楽しんでいます。
きっかけは、子どもに野菜の育つ様子を見せたり、自分で作った新鮮な野菜を食べたいということでした。農業経験がない山本さんですが、畑を始めて野菜作りを通して子どもたちへの食育もすることができましたが、それ以上に大きな収穫は、ご近所の方に農作業を教えてもらったりする中で、とても太いつながりが生まれたことです。
今年に入り、山本さんの娘さんが体調を崩し、畑に来られない時期がありました。そんなとき、農園で知り合った地域の方からすぐに心配の電話があったそうです。山本さんが畑に来られない間も、近所の方や斎藤さんなどがその区画の世話をしたり、できた野菜を届けたりされていました。
今ではその方々と畑で楽しんだり、誕生日や七五三の写真撮影など行っています。
散歩の途中でひとやすみ
農園のご近所に住んでいる80代の塚田さん(仮名)は、毎日の散歩コースにつながる農園があります。
つながる農園では、昨年の5月農園の一角に東屋をたてました。東屋は道に面しているところに建てたので、犬の散歩の途中で一休みするなど、地域の方々の休憩場所にもなっています。
塚田さんも畑仕事の日に顔を出されたり、お散歩の際に人がいると寄ってくれます。
畑仕事をすることだけがつながる農園の活用方法ではなく、この方のようにふらっと立ち寄って、そこにいる人たちと好きなだけお話をするという使い方もできます。
いつも「私は何もできないけど、楽しませてもらってます」とおっしゃっていた塚田さんでしたが、畑に使うビニールが風にあおられてしまってうまく作業がはかどらない時に「こっちを押さえておきますよ」と手伝ってくれることもでてきました。この先も塚田さんが自然に関われる、居心地のいい場所になれたらなと思っています。
学校以外の居場所として
小学校4年生の亮介君(仮名)は昨年から学校に行けなくなりました。
高崎市が、学校にいけない子どもたちが通える場所として整備している支援施設などにも行ってみましたが、やはり学校同様居心地が悪くて行きたくないと言います。両親が仕事に行く日は、一人で自宅で過ごす日々でした。
母親のみどりさん(仮名)は、たまたま知り合いのじゃんけんぽん職員から農園の話を聞き、農園のイベントに亮介君を誘ってみたそうです。普段は誘ってもあまり乗り気にならない亮介君が「畑なら楽しそう。行ってみようかな。」と言ってくれたそうで、玉ねぎの定植をする日に2人で参加してくれました。
農園に来た亮介君は、夢中になって玉ねぎの苗を植え、作業後にみんなで食べた農園野菜たっぷりのみそ汁を3杯もお代わりしました。イベント中には同年代の子どもたちとも楽しく交流し、「また来たい!」と目を輝かせて話してくれました。
青空の下、自由で開放的な屋外での作業が、亮介君の心も開放的にしてくれたのかもしれません。
つながる農園でつながろう
いくつかの事例を紹介しましたが、つながる農園のこれまでの活動を通して、子どもから高齢者まで、さまざまな方にとって大変良い効果を生み出すことができていると感じています。
実は、農園担当の私たち自身も、つながる農園の活動に従事することで起こった自分自身の変化に驚いてもいます。これまで野菜嫌いで、サラダはそっと脇によけていた私が、ニンジンを生で丸かじりできるようになったのです。自分で手をかけて育てた野菜は愛しく、食べてみないわけにはいかなかったからです。そして、採れたて野菜のおいしさに感動し、何でも食べられるようになりました。ピーマンだけはまだ克服できないでいますが…。そしてもう一つ、虫も克服しました。無農薬で育てている野菜は虫たちも大好きです。農園をはじめたころは野菜についた虫たちをピンセットでおそるおそる取っていましたが、かわいい野菜のためと思えば平気で虫取りだってできてしまいます。
わたしたちにも、来てくださる方たちにも、こうした良い効果が出ている背景には、大きな空の下で新鮮な空気を吸いながら開放的にいられることや、小さな子どもから高齢者まで誰にでもできる事があること、おいしい野菜を食べながら笑顔になれることがあると思います。
これからもより多くの方につながる農園のことを知ってもらい、畑に足を運んでもらい、いろいろな人や物事とのつながりを感じてもらいたいと願っています。
私たちがめざす多世代共生型の屋外居場所は、地域の方たちと一緒に進化し続けていきます。