プレスリリース
日立製作所グループで自動化関連の「ロボットシステムインテグレーション(ロボティクスSI)事業」を担う日立オートメーション(東京都大田区、新井美帆社長)は工場や生産ライン全体の提案を得意とする。特に最近はデジタル技術を組み合わせた自動化提案に注力する。新井社長は「時代の変化に対応するために、生産ラインや一部の生産技術も協調領域にするべき」と提唱する。
■日立の総合力を生かして
――まず、会社概要をお願いします。
日立オートメーションは2022年、日立グループ内に複数あったロボティクスSI事業を集約する形で発足しました。各種設備からデジタルソリューション、コンサルティング事業までがそろう日立グループの総合力を発揮し、工場単位や生産ライン全体の構想設計から構築、運用保守まで支援します。経営から現場までとも言い換えられるでしょう。従業員は250人ほどで、国内4カ所と米国、韓国、インドに拠点があります。国内と東南アジアやインドを中心に事業を展開しています。
――特に強みはありますか。
自動車業界や産業用機器業界の工場内搬送を担うマテリアルハンドリングの領域に強みを持ちます。実績を積み重ねてきたOT(制御・運用技術)と日立が誇る最新のITを融合して、エンジニアリングチェーン全体と生産現場の自動化を合わせて提案していくことが可能になりました。
――国内で具体的な構築事例はありますか。
独立前の事例ですが、板金加工機メーカー大手、アマダグループの土岐事業所にある金型工場「T876工場」の構築に携わりました。工場内の生産ラインはもちろん、それらの状況を把握するためのモノのインターネット(IoT)システムや、設備を動かす制御システム、それらのスケジュールを調整する生産管理システムなども手掛けています。完成後の工場内では、生産指示を受けた工作機械や産業用ロボット、搬送用のガントリーローダー、無人搬送車(AGV)などが無駄なく連動します。受注生産の金型部品を最短3時間で出荷できます。高度な自動化工場を実現できたと自負しています。
※参考記事:工場内にはたったの3人 、24時間止まらない工場/アマダ
――あの工場は国内でも屈指の自動化レベルとの印象があります。デジタル技術を組み合わせた自動化提案を標ぼうされる背景は。
一言で表すと、日本の製造業への危機感です。かつての国内メーカーは、先進国の製品の発想を取り入れ、自前で生産技術と品質を磨いて競争してきました。その源泉は、労働人口の多さと長時間労働もいとわない価値観です。しかし、現在は先進国の立ち位置となり、メーカーが大胆な挑戦をするには途上国時代と比べて制約が多くなっています。また、競争力の源泉だった労働力は不足し、労働に対する価値観も変化しています。しかも、社会変化のスピードは増すばかり。従来の前提では成り立たない今こそ、転換のチャンスです。
■日本型と欧米型の良いとこ取りを
同社が提案する今後の製造業の在り方(提供)
――どのように転換すべきでしょうか。
生産技術は協調領域と競争領域に分解し、業界の知恵を結集すべきと考えています。特にデジタルや自動化など生産ラインに求められる最新技術は、わが社のようなシステムインテグレーター(SIer、エスアイアー)も豊富に知見を持っています。そういった部分を協調領域にすれば、最先端の技術を生産ラインに取り入れられます。
――欧米では早くからそのようなラインビルドの発想ですよね。
そうなんです。欧米では工場や大掛かりな生産ライン全体を構想設計から全体最適を目指して手掛けるSIerが多くいます。生産技術をアウトソースすることで、依頼元のメーカーは製品開発や設計、生産技術の中でも核となる部分などに経営資源を集中できます。一方、国内は状況が異なります。メーカー社内の生産技術部門が構想設計や全体構築を担い、各工程の生産設備やロボットなどの自動化機器の構築をSIerが担うケースが少なくありません。そのため、SIerは中堅や中小規模が多いのが現状です。ただ、人手不足が進めば、メーカー側の生産技術も低下する可能性は大いにあります。
――国内のロボット業界では、よく指摘されています。
19年に日立が買収した米国の大手ロボティクスSIerのJRオートメーションから、欧米型のラインビルドのノウハウを学んでいます。確かに、欧米型のラインビルドには、最新技術を取り入れやすいなど利点があります。一方、日本型のラインビルドやSIにも強みがあると再発見しました。それは専門性や緻密性です。そこで、日立オートメーションを設立することで、JRオートメーションと、欧米型と日本型の利点を相互に生かす形を目指しています。JRオートメーションは主に欧米で事業展開しており、日本や東南アジア、インドを担当するわが社と2社でグローバル展開を目指しています。
――欧米型の提案に対し、国内メーカーから抵抗感はありませんか。
ないと言ったらうそになります。ただ、生産技術職で人手不足が進んでいるのも事実です。さらに、国内ではこの30年にわたり、経済成長が停滞していました。その間、工場を新設しなかった企業も少なくありません。最近では、顧客から「生産技術に改善活動のノウハウは多くあるが、新規立ち上げの知見がない」といった話を伺う機会が多くなりました。
――確かにゼロベースでは、異なる知見が必要です。
だからこそ、そういった知見を持つSIerの協力が必要でしょう。日立グループで工場に関わる全てのことが解決するとまでは言いません。でも、グループ内に見識や解決への手がかりを持つ人材は必ずいます。壁に当たった際にグループに掛け合うと、必ず反応があるので、私自身が毎回驚かされています。そういった層の厚さは、国内でも屈指と自信があります。日立には「Lumada(ルマーダ)」と言われる先進的なデジタル技術を活用したソリューション・サービス・テクノロジーがあり、顧客との協創を通してわが社もその一翼を担い、ITからOTを一括して提供できる「トータルシームレスソリューション」に挑戦していきます。
■将棋の棋士とAIの関係性
デジタル活用のイメージ(提供)
――個人的には、デジタル技術の活用に興味があります。
デジタル技術の活用で各工程の効率や作業精度を上げられます。例えば、ライン構築の際にはシミュレーション技術を使うことで、顧客との要件定義の齟齬(そご)を減らせるでしょう。シミュレーション上で問題をしらみつぶしにすることで、現実に設備を導入した後の「現場合わせ」を相当減らせます。結果として、立ち上げまでの期間を短縮できます。また、経験者のノウハウをデジタルに取り込み、人工知能(AI)などを使うことで技能の伝承や自動化を図りたいです。
――生成AIの登場もあり、よく話題にはなりますが、生産現場でのAI活用は進むと思いますか。
日立が本格活用を始めたら、印象や状況が変わる可能性があると思います。AI導入のハードルの一つは、判断などの信頼性でしょう。日立でも使っていると言うと、世の中の受け取り方が変わるかもしれません。そういった心象的なハードルを下げることは重要です。
――なるほど。
それと、最初から信頼しすぎないのも大事です。当初は作業を効率化したり、一部自動化するなどの支援ツールとして活用しつつ、ロボットの自律化などまで任せる範囲を少しずつ広げていくのが理想です。将来的には、人とAIの双方向の学びもあると考えています。将棋AIがまさにそうですよね。登場した頃は、棋士の目の敵にされていましたが、今ではAIの指し手を参考に自身の戦略を立てる棋士も少なくありません。そういった人とAIの化学反応が生産現場で起きるとどうなるのか。考えるとワクワクしませんか。そういった未来を皆さんと築いていきたいと思っています。
(聞き手・ロボットダイジェスト編集長 八角 秀)
転載元: robot digest
robot digest 2024年10月24日掲載記事より転載
本記事はrobot digestより許諾を得て掲載しています。
■関連リンク
株式会社 日立オートメーション
https://www.hitachi-automation.co.jp/
株式会社 日立製作所 ロボティクスSI
https://www.hitachi.co.jp/products/infrastructure/portal/industry/robotics_si/index.html
株式会社 日立製作所 マニュファクチャリング
https://www.hitachi.co.jp/products/infrastructure/portal/industry/manufacturing/index.html
株式会社 日立製作所 ロジスティクス
https://www.hitachi.co.jp/products/infrastructure/portal/industry/logistics/index.html