プレスリリース
三菱地所グループのマンション管理会社が「管理会社が不要になるアプリ」を開発。業界の常識を破壊し続けるイノベリオスの新規事業が誕生するまで
イノベリオス株式会社は、「日本のマンションをもっと住民ファーストに」というコンセプトのもと、マンション管理支援アプリ:KURASEL(クラセル)をマンション管理組合に提供する事業を展開しています。
管理組合がクラセルを導入すると、管理会社に頼らずとも自分たちだけでマンション管理が出来るようになり、管理費を抑えることができます。
これは一見すると、管理会社とカニバリゼーションを引き起こしそうな事業です。
もともと三菱地所グループ傘下のマンション管理会社に属していた社員たちが、なぜこの事業を開始したのか。その背景について当社代表が振り返ります。
イノベリオス株式会社 代表取締役 社長執行役員 安藤康司
イノベリオス株式会社について
2020年6月 マンション管理会社である三菱地所コミュニティから新設分割し誕生。
2021年2月 マンション管理支援アプリ「クラセル」のサービス開始。以降、順調にユーザー拡大を続けています。
2018年頃までマンション管理事業は成長産業だった
マンション管理事業が誕生してから50年以上が経過していますが、これまでビジネスモデルを大きく変えずに成長を続けてきました。
この間、マーケットである分譲マンション自体が毎年増え続けていきましたので、業界全体が成長しやすい状況にあり、変える必要が無かったのです。
ところが2018年頃より少しずつその状況に変化が見られました。
管理会社の下請企業の多くが、管理会社に対して発注金額の値上げを要求し始めたのです。
人手不足の影響により、下請企業からの値上げ要請が相次ぐ
マンション管理事業は労働集約型産業です。
マンションの清掃をするのも設備の点検をするのも修繕工事するのも、全てヒトです。
ロボットやAIが人間に代わって管理業務を行うのは現時点では様々なハードルがあり、実現が難しい状況です。そのため、人手不足の影響をとても受けやすい業界なのです。
多くの管理会社は管理業務の大半を下請企業に再委託しています。例えば、マンション内の清掃や、エレベーターや給排水設備などの点検、不具合発生時の修繕工事、植栽の維持管理などです。
下請企業の人手不足感がかなり深刻になり始めたのが2017年から2018年頃でした。元々慢性的に人手は不足していましたが、この頃に一気に加速したようです。
人手不足が続くと、各企業は給与をアップしたり、採用費を増やしたりしますので、コスト増につながります。その結果、多くの下請企業が管理会社に対し、下請金額の値上げの要請を始めたのです。
下請企業はこれまで、管理会社に値下げの提案をすることはあっても、値上げを要請するケースはあまり見受けられませんでした。下請企業は管理会社から多くの仕事を受けていましたので、値上げをお願いして仕事を打ち切られてしまうのを恐れていたのだと思います。ところが、いよいよそんなことを言ってられない状況だと判断したのでしょう。人件費や採用コストが膨らむばかりのため、こぞって値上げの要求をするようになりました。
値上げを要請された管理会社は「今までの同額の費用で仕事を引き受けてくれる別の下請業者に発注先を変えよう」と考えましたが、多くの下請企業が一斉に値上げを要請したため、発注先を変えたところで値上げは避けられない状況でした。
管理会社としては値上げを受け入れるしか無く、そうなると当然利益は減少します。
このまま何もしなければ利益が減るだけ。そう考えた管理会社の多くは、管理組合に対し値上げの要請を始めました。いわゆる価格の転嫁です。
管理会社から管理組合への値上げ要請も始まった
利益の減少を回避するために、管理会社は管理組合に対して管理委託費用の値上げの要請を始めました。下請企業と同様、これまで顧客からの値下げ要請を受け入れることはあっても、値上げをお願いすることはとても珍しいことでした。値上げをお願いして管理を打ち切られたくないという考えがあったからです。
当時、色々な管理会社の方からもお話を聞きましたが、値上げのお願いをした結果、予想以上に多くの管理組合が値上げを受け入れてくれたようでした。
「ずっと値上げをせずにこれまで管理をしてきてくれたんだから、少しくらいの値上げは仕方ないだろう」と考えてくれたお客様が多かったようです。
もちろん、全ての管理組合が値上げを受け入れた訳ではありませんが、下請企業の発注額増による利益圧迫分を転嫁することで、管理会社は大幅な利益減を回避できたという訳です。
※2019年10月25日付マンション管理新聞(第1119号)記事より転載
管理会社の人手不足も深刻化。企業の65歳定年制も影響
下請企業の人材不足が深刻になり始めた時期と同じくらいのタイミングで、管理会社の方も同様に深刻になり始めました。
まず、管理員さんの採用が非常に困難になりました。
これまで、管理員さんは一般企業を60歳で定年退職し、年金を受給し始める65歳までの間のつなぎのお仕事として就かれる方が多くいらっしゃいました。ところが企業の定年が65歳に引き上げられたり、再雇用で同じ会社で働き続ける人が増えたりしたことで管理員の仕事をしようと考える人が激減してしまいました。
また、管理員さん以外にも、フロント担当者と呼ばれるお客様対応の窓口となる社員の採用も非常に困難になっていきました。管理会社の仕事はクレームを受けることも多く、土日に開催されることの多い理事会の対応業務もあり、元々人気のある職業では無かったのですが、さらに拍車をかけるように採用が難しくなっていきました。
下請業者と管理会社の人手不足問題から導き出された将来予測
下請企業の人手不足問題は、超高齢社会に突入した我が国の情勢を鑑みると、間違いなく今後さらに深刻化していくだろうと思われました。そうなると、下請金額の値上げに伴う管理費用の値上げ要請は、一過性のものでは無く、今後も継続的に行われていくのでは無いかと考えました。
一方、マンションの住民の方々の高齢化も進み、年金生活者の割合も増えていくと、出来るだけ毎月の支出は抑えたいと考える方も多いのでは無いだろうか? そのなかで、管理費の値上げ要請が継続的に行われた場合、どうなるのだろうか?
そう考えた先にあったのは、管理費を抑えるために、管理会社に管理業務を委託せず、自分たちで管理を行う、いわゆる「自主管理」に移行しようと考えるマンションが多くなるのでは? という仮説でした。
また、管理会社の人材不足もさらに深刻化が進み、管理業務を行える人材がいないために管理業務をやめてしまうケースも出てくるのでは無いかと思われました。この場合も管理組合は「自主管理」に移行することになります。
これまでは分譲マンションの管理は管理会社に委託するもの、というのが常識でした。
正確な統計数字は存在しませんが、自主管理をしているマンションは全体の5%〜10%程度しかないと言われていました。
先ほど述べた管理費用の値上げや管理会社の人手不足により、自主管理の割合が数年後〜10数年後には大幅に増えていくのでは無いかと考えました。
しかし、管理組合がマンションの自主管理をしてゆくのは、かなり大変な作業です。大変だからこそ自主管理の割合が少ないのです。
そこで、「誰でも簡単に自主管理ができるアプリ」があれば使いたいと考えるニーズがあるのではないかと考えたのです。
「自主管理アプリ」という新規事業は、既存事業を否定しかねないという意見も
こうして自主管理アプリ事業の構想が固まり、新規事業の立案へ話を進めることになりました。
経営層も管理業界で起きていることは当然把握していましたし、将来的に自主管理を選択する管理組合が増えていく可能性がある、という点について異論を唱える人は一人もいませんでした。
しかしながら、自主管理アプリは、見方を変えると「管理会社を不要にするアプリ」であり、管理会社が自らの存在を否定するような事業を推し進めて良いのだろうか? 管理事業とカニバリゼーションを引き起こすのでは無いか? といった反対意見も多くありました。
管理会社が管理するマンションの中には、たくさんの管理委託費をいただいているものから、少額のものまで様々なタイプのマンションが混在しています。もし、たくさんの売上をいただいているマンションの方々が自主管理に切り替えてしまうと、管理会社は管理業務を打ち切られてしまう訳ですから、管理会社は大幅な収益減となってしまいます。
そのため、自主管理アプリ構想に反対する意見も、もっともな意見であると私自身も思いました。
しかし、最終的に決め手となったのは「我々がこの事業をやらないからと言って他社やらない保証は無いのでは? だったら当社が先んじて取り組んだ方が、万が一当社に都合の悪いことが起きたとしても対応しやすいのでは?」という意見でした。
非常に当たり前の話ではありますが、シンプルに響きました。
意外と新規事業を検討していくうえでは自社を中心に物事を考えてしまうことが多く、こういったごくごく当たり前の発想が抜け落ちてしまうものだなと思ったことを覚えています。
また、「大手航空会社グループが格安航空会社を傘下にしていたり、大手携帯電話会社が格安スマホ事業を展開したりしているんだから、この事業も両立できるんじゃないか」という意見も後押しになりました。
こうして自主管理アプリの開発及び事業化が決定しました。
自主管理アプリの開発に着手。1年半を費やし初期開発を完了
事業化が決定したあと、すぐに自主管理アプリの開発に着手しました。
住民の方たちが中心になってマンション管理をする、ということはマンション管理に関する知識や経験が無い方でも問題無く対応できるようにしなければならないですし、管理会社と違い、管理組合の方はずっとパソコンに向き合っている訳では無いので、片手間で管理業務を出来るようにしなければならない、そういったことを常に念頭に置きながら仕様を決めていきました。
マンション管理業務は、各部屋の所有者・居住者の個人情報の管理、清掃やメンテナンス作業などの発注先の情報管理、駐車場や駐輪場などの共用部分を利用している人の情報管理に加え、管理費等の徴収や、業者さんへの作業費用の支払、決算書類の作成など多岐に渡ります。
これらの管理業務をいかに簡単に行えるようにできるか?
開発業務の委託先も含め、開発に携わったメンバー全員がそのことを一生懸命考え、一つ一つ機能を作っていきました。
※クラセルのトップ画面
開発に着手してから初期開発の完了までに、約1年半ほどかかりました。
この1年半の間に、仕様変更や、考慮出来ていなかった新たな要件の浮上、多数のバグ対応など、様々な障害が発生しましたし、開発エンジニアが会社を辞めてしまうといった問題も起きました。ゼロベースから複雑なシステムを構築することの難しさというものを痛感した記憶が今も鮮明に残っています。
途中、様々な課題は発生したものの、開発に携わっているメンバー全員が「今の時点で考えられる最善の策を選択していきましょう」「開発完了を急ぐのは重要だが、それによってお客様が使いにくいアプリになってしまっては元も子もない。設計段階で最重要方針としていた点は絶対に妥協しないようにしましょう」と前向きに協力しあい、何とか予定通りサービスを開始することが出来ました。
そんな努力もあってか、クラセルをお使いいただいている方々からは「とても分かりやすい」「これなら初めて役員になった人でも問題無い」と高評価をいただいております。
※開発作業の様子
サービス開始後、サポートメニューも充実化させた
サービス開始後、すぐに数件のマンションでクラセルを使っていただくことが決定しました。導入実績が全く無いなかで「三菱地所グループが開発したなら大丈夫だろう」という理由だけで導入を決めて下さったマンションもあり、非常に有難く思いました。
その後も毎月数件ずつ導入実績が増えて行きましたが、「クラセルを使うと簡単に自主管理が出来るようになるのはイメージできたが、自主管理に対する漠然とした心理的不安もある。何かしらのプロのサポートが受けられないか」といった声も多く頂戴するようになり、サポートメニューも充実させていきました。
※サポートメニューの例
また、サービスが認知され始めた頃より、多くの管理会社から「クラセルを使ってみたい」という問合せをいただくようになりました。あくまでクラセルは管理組合向けのアプリ、というコンセプトでしたので、管理会社からそのような問合せを受けることは想定していなかったのですが、クラセルは管理業務の効率化が実現出来るアプリですので、管理会社から使いたいというニーズがあるのも当然と言えば当然のことだったかも知れません。
この新規事業のやりがいは、お客様からいただくお声
この事業を開始してから約3年が経過しましたが、一番嬉しいのは、お客様のお役に立てているということを実感できている点です。
「クラセルを導入し、管理費を値上げせずに済んで良かった」
「管理費に剰余が生まれ、不足していた修繕積立金に充当することができた」
「長年自主管理をしてきたが、アナログなやり方で役員の人たちが大変だった。クラセルを導入してとても楽になった」
「クラセルを活用したことで業務がかなり効率的になった(管理会社の方の声)」
こういったお声をいただくと、このサービスを世に送り出すことが出来て良かったなと純粋に思いますし、もっとより良いサービスになるよう取り組んでいこうと思います。
おわりに。今後社会課題化するであろう「マンションの老朽化問題」について
既に述べました通り、この事業は「自主管理アプリ」のニーズが今後膨らむのでは無いかという発想からスタートしたものですが、マンション管理のことをさらに深堀していくうちに違った課題感が見えてきました。
最後にそのことに触れさせていただきたいと思います。
日本に分譲マンションが誕生してから70年が経過し、総戸数は700万戸に迫ろうとしていますが、今後社会課題化してくるのでは無いかと危惧されているのが「マンションの老朽化問題」です。
マンションが古くなると修繕や交換が必要な設備等が増えますので、当然ながら修繕費用も増加します。分譲マンションの場合、通常は10年〜15年ごとくらいの頻度で大規模修繕工事を実施します。
この大規模修繕工事を行うために、各部屋の所有者から毎月修繕積立金を集めている訳ですが、修繕積立金が不足するマンションが多く存在します。
不足してしまう理由はマンションの状況によりますが、「長期修繕計画の見通しが甘かった」「工事費用が計画段階よりもあがってしまった」「段階増額方式のため、修繕積立金の値上げを定期的にしなければならなかったが、値上げを先延ばししてきた」などが多く見受けられます。
大規模修繕工事の際、必要な修繕費用が足らない状況だった場合に「捻出できるお金の範囲内で工事を実施しよう」という選択をする場合があります。
1回目、2回目の大規模修繕工事のタイミングであればその選択肢を選んだとしても、そこまで大きな弊害はありません。ところが3回目の大規模修繕工事の頃になると、築年数も45年〜50年くらいになっていますので、必要な修繕を全て行わないとまずい場合があります。
具体的には外壁のタイルの落下の恐れがあったり、非常階段の手すりが今にも崩れそうな状態になっていたりと、住民の方々の身に危険を及ぼすものから、給排水管を交換しないと、あちこちの部屋で漏水事故が起きてしまうといった、生活に支障をきたすような状態のマンションです。
必要な工事を全て実施したくても修繕積立金が足らない。
その場合、きちんと修繕を行うには金融機関から借り入れをするか、各所有者から一時金を徴収するかの対応が考えられます。
しかしながら、築年数が50年近くなってくると所有している方たちも高齢化していきますので、あまり高額な一時金の徴収や借入は反対されてしまうケースも考えられます。
そうなると必要な修繕が出来ず、老朽化した危険なマンションになってしまうのです。
今後、築古マンションは当然ながら増加していきます。
国土交通省の統計によると、築40年以上のマンションは2032年末には約260万戸に増え、2042年末には約445万戸になります。仮に1マンションあたりの平均戸数が60戸とすると、マンションの数としては実に74,000棟以上です。
※国土交通省公開資料より抜粋
このままでは修繕費用が捻出できない老朽化マンションが日本中のあちこちで存在してしまうことも考えられます。
このような老朽化マンションを増やさないためにどうすれば良いのでしょうか?
それは、マンションがさほど古くないうちから管理費用を含めた維持管理コストを抑え、将来必ず直面する高額な修繕工事の場面に備えるということです。
少し前に話題になりました「老後2,000万円問題」の話と似ています。
あの話を聞いて、「老後にそんなにお金が必要なの? じゃあ将来に備えて若いうちから老後に備えておかないと」と考えた人も少なくないのでは無いでしょうか。
マンションもそれと同じです。
ご自分のマンションが、将来そんな状況に陥る可能性を全く認識していない方たちが多いため、マンション全体のコストを抑えようという発想に至っていないケースが多いように感じています。
弊社のお客様なかには築40年を超えるマンションの管理組合の方たちもたくさんいらっしゃいます。
そのようなお客様から「もっとマンションが古くないうちから将来に備えておくべきだった」というお話をよくお聞きします。なかには「もっと早くクラセルが世に誕生していれば良かったのに・・・」などといった嬉しいような残念なような気持ちになるご意見もいただきました。
実は「クラセル」というネーミングには「安心して暮らせる(くらせる)」という意味も込められています。
まだマンションが古くないうちからクラセルを活用して管理コスト削減をし、マンションが古くなった後でも「安心して暮らせる」方たちがたくさん増えれば弊社としては非常に嬉しい限りです。
今後も既成概念に捉われず、マンション管理に関わる全ての方たちに良い影響を与え続けられるようチャレンジを続けてまいりたいと考えています。
※マンション管理アプリ:クラセルとは
マンション管理業務において、複雑な処理や専門的な知識が必要な部分の自動化や簡略化を実現した日本初のマンション自主管理アプリです。
(特許出願中 特願2020-095642)
クラセルを活用した自主管理プランから、管理会社がクラセルを活用して効率的に管理業務を行うプランまで様々な管理方式を選択でき、費用は1マンションあたり月額16,500円(税込)〜となっています。