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学校法人 順天堂

慢性腎臓病の病態メカニズム解明の鍵となる分子を同定

(PR TIMES) 2017年03月30日(木)18時22分配信 PR TIMES

〜 腎障害の新しい診断法と早期治療薬の開発へ 〜

順天堂大学大学院医学研究科・腎臓内科学講座の佐々木有助教、日高輝夫准教授、鈴木祐介教授ら、および京都大学の淺沼克彦准教授らの共同研究グループは、慢性腎臓病の病態メカニズム解明の鍵となる分子を同定しました。本研究では、細胞のエンドサイトーシス(細胞外の物質を細胞内へ取り込む働き)を司る分子であるSNX9 *1が、腎糸球体足細胞(ポドサイト)障害*2とヒトの腎硬化に関与していることを発見しました。この成果は、SNX9が慢性腎臓病の新しい診断法と早期治療薬開発の新規ターゲットとなることを示します。本研究は、英科学雑誌Scientific Reports電子版に掲載されました。
【本研究成果のポイント】

慢性腎臓病の原因となる腎糸球体足細胞(ポドサイト)の障害メカニズムにSNX9が関与
SNX9はヒトの腎疾患群でポドサイト障害のバイオマーカーとなる可能性
SNX9が慢性腎臓病の進展を防ぐ新規治療薬開発のターゲットとなりうる


【背景】
慢性腎臓病は、わが国で患者数が1330万人にものぼり、20歳以上の成人の8人に1人がこの病気に該当すると推定され、新たな国民病ともいわれています。また、進行すると 生涯にわたり透析療法が必要となり、慢性腎臓病に効く薬がないことから、大きな問題となっています。血液の濾過装置である腎糸球体が、糖尿病、高血圧、慢性糸球体腎炎などで硬化に陥ることで、腎機能が低下した状態が続き、慢性化します。糸球体を外側から支える細胞は糸球体足細胞(ポドサイト)と呼ばれ、隣接するポドサイトと指を組みあうように絡み合っており(図1) 、このポドサイト同士の隙間をスリット膜といわれる構造体が覆っています。ポドサイトが障害を受けるとスリット膜が崩壊し蛋白尿が出現するものの、この障害は可逆的であり、治療により元の状態に戻すことができます。しかし、さらに障害がすすむとポドサイトが変性・脱落し不可逆的な糸球体硬化*3が起こります。この糸球体硬化は、従来薬では進行を止めるのに不十分であり、新たな治療薬の開発が切望されています。そこで、私たち研究グループは、慢性腎臓病の原因となる糸球体の硬化を引き起こす、ポドサイトの障害メカニズムに着目し、研究を進めてきました。
[画像1: https://prtimes.jp/i/21495/19/resize/d21495-19-491681-2.jpg ]


【内容】
私たちの研究グループは、まずポドサイト障害の変性にいたるメカニズムを明らかにするため、糸球体硬化症の疾患モデルラットとヒトの腎炎の患者さんの腎生検組織の免疫染色を行い、ポドサイトにおけるタンパク質の発現分布を調べました。その結果、スリット膜タンパク質であるポドシン*4が障害時にポドサイトの細胞膜から細胞質へ移動していることを発見し、その局在変化がエンドサイトーシスによることを明らかにしました。膜貫通タンパク質であるポドシンは単独で細胞質に移動することは困難なため、その移動を誘導する分子の存在が考えられることから、今回、私たち研究グループはポドシンと結合するタンパク質のなかからエンドサイトーシスを担う分子を探索しました。そして、酵母ツーハイブリッド法*5の結果から、細胞内輸送タンパク質のSNX9に注目し、腎障害における役割を調べました。

ネフローゼ症候群と糸球体硬化症の疾患モデルであるアドリアマイシン腎症マウス*6の腎臓の免疫染色では、アドリアマイシンを投与するとSNX9の発現量が多くなり、またポドシンと発現の分布が一致していることが分かりました。さらに腎炎やネフローゼ症候群の患者さんの腎生検組織の免疫染色では、糸球体硬化を来たす疾患と来たさない疾患とを比べると、SNX9は糸球体硬化を来たす疾患において発現量が多くなり、かつポドシンと発現分布が一致することが分かりました(図2)。つまり、SNX9はポドサイト障害が強くなるにつれ発現量が増えており、ポドサイト障害のバイオマーカーとなる可能性が示されました。
[画像2: https://prtimes.jp/i/21495/19/resize/d21495-19-725663-3.jpg ]


さらに、ポドサイトの培養細胞を用いて、SNX9をノックダウン(遺伝子の発現を減少させる操作)すると、ポドシンは細胞膜にとどまり、細胞質へはわずかにしか移動していませんでした。すなわち、SNX9がポドサイト障害時におけるポドシンの局在変化をコントロールする鍵分子であることが明らかとなり、SNX9が慢性腎臓病の進展を防ぐ新規治療ターゲットとなる可能性が本研究により初めて示唆されました。

【今後の展開】
ポドサイト障害の程度を判定するには腎生検が必要ですが、腎生検で採取できる組織はごく一部のため、糸球体硬化などの病変があっても見逃してしまうことがあります。ネフローゼ症候群では糸球体硬化の有無が治療方針を左右するため、ポドサイト障害のなかでも糸球体硬化を来たす場合に特徴的に発現の上昇が認められるSNX9は、ポドサイト障害の進行を見極める新たなバイオマーカーとなる可能性があります。

さらに、本研究で明らかになったポドシンのSNX9によるエンドサイトーシスの仕組み(図3)は、ポドサイト障害の病態メカニズムの解明につながることが期待されます。今後はノックアウトマウス(遺伝子が無効化されたマウス)や過剰発現細胞などを用いてSNX9の役割をさらに解析することにより、SNX9が腎保護的にはたらくのか、もしくは腎障害を促進させるのかを明らかにしたいと考えています。


[画像3: https://prtimes.jp/i/21495/19/resize/d21495-19-819402-0.jpg ]


ポドサイト障害は慢性腎臓病を来たすどの腎疾患においても認められる現象のため、SNX9の働きに作用する薬剤は慢性腎臓病の新しい早期治療薬になりうる可能性があり、増加する一方の慢性腎臓病患者を減少させることが期待できます。

【用語解説】
*1 SNX9
SNX (Sorting nexin)は、細胞内輸送を担うタンパク質ファミリーであり、細胞外の物質を細胞内へ取り込む働き(エンドサイトーシス)や取り込まれた様々な物質の選別・分解・再利用を制御する小胞のエンドソームの輸送、シグナル伝達など細胞内の様々な機能に関与しています。SNX9はSNXに属するタンパク質で、主にエンドサイトーシスに関わっています。

*2 糸球体足細胞(ポドサイト)障害
糸球体足細胞(ポドサイト)は糸球体の構成細胞の一つであり、糸球体の構造の維持と血液濾過機能において重要な役割をもっています。ポドサイト障害はアポトーシスや様々な理由から糸球体基底膜からのポドサイトの脱落が起こることで、蛋白尿と糸球体硬化が進みます。ポドサイトは増殖や再生をすることができない細胞のため、障害が進むと慢性腎不全となります。

*3 糸球体硬化
糸球体が部分的または全体的に硬化し、血液濾過機能が障害される状態。糖尿病腎症、慢性糸球体腎炎、ネフローゼ症候群、腎硬化症など、慢性腎臓病を来たすどの腎疾患でもポドサイトが障害され糸球体硬化が生じることが知られています。硬化した糸球体が増加してくると、腎臓の機能が低下し、最後には透析療法が必要となります。

*4 ポドシン
ポドシンはヘアピンループ状の膜タンパク質で、ポドサイトに特異的に発現しています。ポドサイトにある他の膜タンパク質と結合し複合体を形成することで、細胞骨格と結合して足場タンパク質としての機能をもつと考えられており、家族性ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群(多量の尿蛋白を呈する病気)の責任遺伝子として同定されています。

*5 酵母ツーハイブリッド法
遺伝子が組み換られた酵母株を使用し、タンパク質間相互作用を調べる手法の一つです。

*6 アドリアマイシン腎症マウス
抗悪性腫瘍剤(抗がん剤)の一種であるアドリアマイシンをマウスに経静脈的に投与すると、蛋白尿を生じ、ポドサイト障害が引き起こされ糸球体硬化に至ります。そのため、アドリアマイシンを投与されたマウスはネフローゼ症候群と糸球体硬化症の疾患モデルとして使用されています。

【原著論文】
本研究は、Nature Publishing Groupの電子版雑誌「Scientific Reports」(http://www.nature.com/articles/srep43921)で2017年3月7日(日本時間)に公開されました。
DOI:10.1038/srep43921
英文タイトル:Sorting Nexin 9 facilitates podocin endocytosis in the injured podocyte
日本語訳:ポドシンのエンドサイトーシスにおけるSNX 9の役割
著者:Yu Sasaki, Teruo Hidaka, Takashi Ueno, Miyuki Akiba-Takagi, Juan Alejandro Oliva Trejo, Takuto Seki, Yoshiko Nagai-Hosoe, Eriko Tanaka, Satoshi Horikoshi1, Yasuhiko Tomino, Yusuke Suzuki and Katsuhiko Asanuma

研究助成先
本研究は、JSPS科研費若手研究 (B) (JP26860648)(JP15K19466) 、JSPS科研費挑戦的萌芽研究 (JP26670431)などの助成を受け実施されました。



プレスリリース提供:PR TIMES

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