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学校法人 順天堂

差別・中傷などの社会批判による心的外傷後ストレスは強く持続する

(PR TIMES) 2017年03月07日(火)16時19分配信 PR TIMES

〜福島原発所員の3年間の追跡調査から〜

順天堂大学大学院医学研究科・公衆衛生学講座の野田愛准教授、谷川武教授らの研究グループは、福島原子力発電所員のメンタルヘルスについて追跡調査を実施し、災害関連体験*1と心的外傷後ストレス反応(PTSR:posttraumatic stress response)*2との間に因果関係があることを明らかにしました。本研究で、原発事故の災害関連体験によるメンタルヘルスの不調は時間とともに回復することがわかりましたが、「差別・中傷などの社会批判によるPTSR」は、3年経過してもなお、非常に強く残ることが認められました。これらの結果は、災害後における支援策の具体的な改善に役立ちます。本研究は、英国の医学雑誌「Psychological Medicine」に掲載されます。
【本研究成果のポイント】

災害関連体験が原因となり、メンタルヘルスに不調が生じることを証明
災害関連体験によるメンタルヘルスの不調は時間とともに回復する一方で、PTSRリスクは災害から3年経過しても持続する
「差別・中傷によるPTSR」は、他の項目より影響が顕著であった


【背景】
2011年4〜5月に実施されたFukushima Nuclear Energy Workers Support(NEWS)プロジェクト調査*3により、同年3月11日の東日本大震災に伴う福島原子力発電所事故における災害関連体験を経験している所員は、経験していない所員に比べて、PTSRや精神的苦悩(GPD:general psychological distress)*4といったメンタルヘルスの不調があることが明らかになりました。しかし、このようなメンタルヘルスの不調の時系列的な変化については、これまで十分な検討がされていませんでした。そこで、私達の研究グループは2011年〜2014年までの3年間の縦断研究を実施し、原子力発電所員のメンタルヘルスを長期的に調査することで、福島原子力発電所事故後の災害体験との因果関係について検討しました。

【内容】
まず、災害2-3か月後(2011年)に福島原発所員に対して実施した自己記入式アンケート調査をもとに、1)自分の命に危険が迫る体験や発電所の爆発などの「惨事ストレス」、2)同僚を失った「悲嘆体験」、3)財産喪失、自宅からの避難といった「被災者体験」、4)「差別・中傷」などの社会批判を受けた等、 1)〜4)の災害関連体験を経験した所員と経験しなかった所員に分け、出来事インパクト尺度*5を用いて、PTSRの有無を評価しました。本研究では、アンケート調査に回答のあった発電所員1,417名(第一原発:1,053名、第二原発:707名)を対象とし、2011年から2014年までの災害関連体験とPTSRの長期的変化との関連について分析しました。

その結果、「惨事ストレス」、「被災者体験」、「差別・中傷」といった災害関連体験を経験した所員のPTSRのリスクは、いずれも時間とともに徐々に低下する傾向がありましたが、経験していない所員に比べると、3年経過してもなお、PTSRのリスクが持続することが認められました。特に、「差別・中傷」といった社会批判を受けた所員は、受けていない所員に比べて、2011年時点では約6倍、2014年時点でも未だ約3倍のPTSRリスクが有意に高いことが明らかになりました(図1)。また、同僚を失った「悲嘆体験」経験がある所員は、経験のない所員に比べて、2011年時点で約2倍、 2014年時点においても回復することなく同等のリスクがあることが認められました。つまり、「悲嘆体験」といった悲しみの感情はずっと引きずることがわかります。

以上のことから、「惨事ストレス」、「悲嘆体験」、「被災者体験」、「差別・中傷」といった災害関連体験は、長期間持続して、PTSRに強い影響を及ぼすことが考えられます。

【今後の展開】
災害後4〜12ヵ月の間、メンタルヘルスの不調を訴える所員に対して、精神科医や臨床心理士が、継続的に治療や心理カウンセリングを提供し、精神的支援を行ってきました。しかし、本研究により、彼らが受けた災害関連体験、特に差別・中傷などの社会批判によるPTSRは、長期にわたり持続していることが明らかとなり、今までの支援では不足していることがわかります。所員のメンタルヘルスを良好に保つためには、組織的な介入策など広範囲にわたる長期的な支援が必要です。このことは、原発事故のみならず、多くの災害等における支援者ならびに被災者のメンタルヘルス対策を考える上で重要です。

[画像: https://prtimes.jp/i/21495/18/resize/d21495-18-160946-0.jpg ]

図1: 差別・中傷などの社会批判によるPTSRのリスクは、長期間持続する
1)惨事ストレス、3)被災者体験、4)差別・中傷を経験した所員のPTSRのリスクは時間(2011年〜2014年)とともに徐々に低下していました。しかし、これらの経験は、災害から3年経過してもなおPTSRのリスクが高いまま持続することが認められました。 2)悲嘆体験は、時間に関係なくPTSRのリスクが持続していました。

*統計的有意差あり
図中にあるオッズ比は、いずれも1.0より大きく、対照群(これらの経験をしていない所員)に比べて、リスクが統計学的に有意に「高い」ことを示しています。

【用語解説】
*1 災害関連体験
2011年のFukushima NEWS Project (*3)の際に、福島原子力発電所員が東日本大震災およびそれに伴う原子力発電所事故の影響で受けたストレスの原因と思われる経験:1)自分の命に危険が迫る体験や発電所の爆発を目撃するなどの「惨事ストレス」、2)家族や同僚の死亡といった「悲嘆体験」、3)自宅からの避難、財産損失といった「被災者体験」 、4)「差別・中傷」といった社会的批判を受けた経験。

*2 心的外傷後ストレス反応(PTSR:posttraumatic stress response):
誰にでも苦悩をもたらすような強いストレスを受けた後、正常に起こる心理的反応。1)「再体験(侵入)」(繰り返し思い出す)、2)「回避・麻痺」(避けてしまう・感情が麻痺する)、3)「過覚醒」(神経過敏になる)が生じるが、時間とともに軽快する。

*3  Fukushima NEWS Project (NEWS: Nuclear Energy Workers’ Support):
東京電力福島第一・第二原子力発電所員のメンタルヘルス支援を目的としたプロジェクト研究活動。
本プロジェクトでは、事故後、福島原子力発電所員は、(*1)で挙げた1)惨事ストレス、2)悲嘆体験、3)被災者体験、4)差別・中傷の「四重のストレス」を経験したことを報告している。

*4 精神的苦悩(GPD:general psychological distress ):
精神的な苦痛を感じている状態、抑うつ・不安などを含む。

*5 出来事インパクト尺度:Impact of Event Scale-Revised (IES-R):
世界的に用いられている心的外傷後ストレス反応(PTSR)の重症度を評価する自記式質問紙。最近1週間の22項目の症状についてその強度を0-4点とし、それぞれを加点(最大88点)することによって評価する。本研究では IES-R :25点以上を「心的外傷後ストレス反応あり」と評価した。

【原著論文】
本研究は、英国の医学雑誌「Psychological Medicine」Vol47.2017 (http://journals.cambridge.org/psm) に掲載されます。
英文タイトル: Longitudinal effects of disaster-related experiences on mental health among Fukushima nuclear plant workers: The Fukushima NEWS Project Study
日本語訳:福島原子力事故後の災害体験が、原子力発電所員のメンタルヘルスに与える長期的影響:Fukushima NEWS Project研究
著者: Ai Ikeda, Takeshi Tanigawa, Hadrien Charvat, Hiroo Wada, Jun Shigemura, Ichiro Kawachi

本研究は、厚生労働省科学研費補助金(労働安全衛生総合研究事業: H24-001, 25-H24-001, 26-H24-001)の支援を受け実施されました。

プレスリリース提供:PR TIMES

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