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プレスリリース

学校法人藤田学園

制酸剤の漫然とした服用はタンパク質不足の原因になる可能性がある

(Digital PR Platform) 2024年11月08日(金)10時47分配信 Digital PR Platform

〜血中プレアルブミン濃度と制酸剤が負に関連することを初めて明らかに〜

藤田医科大学医学部臨床栄養学 飯塚勝美 教授と藤田医科大学病院 国際医療センター 佐々木ひと美 センター長(医学部腎泌尿器外科学 教授)らの研究グループは、同センターで精密検診を受診した92名を対象に、食事内容、咀嚼嚥下機能、胃酸に影響を与える因子(胃酸の分泌を強力に抑える制酸剤の内服、ヘリコバクターピロリ感染)と栄養状態を反映するプレアルブミン、アルブミン、ビタミンB12の関連について比較しました。その結果、タンパク質摂取量とビタミンB12摂取量は、血中プレアルブミン濃度、血中ビタミンB12濃度とそれぞれ正の関連が見られましたが、制酸剤の内服については血中プレアルブミン濃度のみ負の関連が見られました。
血中プレアルブミンは栄養状態を鋭敏に反映するマーカーとして、日常的に低栄養の患者で測定される指標です。プレアルブミンは肝臓での蛋白合成を反映するため、制酸剤の投与は胃でのタンパク質分解、小腸でのアミノ酸吸収を抑制することで体内での蛋白合成が抑制される可能性が考えられます。したがって、高齢者のようにタンパク質摂取量の少ない方に制酸剤を投与する際には、体内での蛋白合成がさらに低下する懸念があり、消化の良い食べ物(タンパク質)を選ぶ必要があります。
本研究成果は、栄養学分野における国際ジャーナル「Nutrients」(16巻21号)で発表され、併せてオンライン版が2024年10月30日に公開されました。
論文URL :https://www.mdpi.com/2072-6643/16/21/3715


<研究成果のポイント>

この研究は65歳以上の高齢者を48%含む集団を対象とした。
物理的消化(咀嚼嚥下)、化学的消化(制酸剤、ピロリ菌除菌歴、ピロリ菌抗体陽性)が栄養マーカー(プレアルブミン、アルブミン、ビタミンB12)に影響するか関連を調べた。
物理的消化、化学的消化の役割を同時に調べた研究は極めて稀である。
本研究により、栄養状態の鋭敏な指標である血中プレアルブミン濃度と制酸剤(PPI、PCAB)が負に関連することを初めて明らかにした。
漫然と制酸剤が使用されている例は高齢者でしばしば見られる。
加えて、高齢者ではタンパク質の摂取量が低下しやすいため、制酸剤投与によりさらに蛋白合成が低下する恐れがある。
蛋白合成の低下は全身の筋肉量低下(サルコペニア)を引き起こす可能性もある。


<背 景>
現在、65歳以上の男女のうち10−20%が低栄養といわれています。低栄養は入院期間の延長などにつながりかねず、入院前からの介入が必要とされます。低栄養では、タンパク質摂取量の低下や炎症などにより、プレアルブミンやアルブミンの低下が見られます。またビタミン欠乏を伴いやすく、ビタミンB12欠乏を合併することがあります。
食べ物の消化には、咀嚼嚥下といった物理的消化、唾液や胃酸による化学的消化、腸内細菌による生物的消化があります。当然ながら、消化が悪くなると、栄養素の吸収が悪くなることは予想できます。
我々は、嚥下咀嚼といった物理的消化、制酸剤やヘリコバクターピロリ感染といった化学的消化が、栄養マーカーであるプレアルブミン、アルブミン、ビタミンB12の血中濃度とどのように関連するかを藤田医科大学国際医療センターの精密検診を受診した方(92名)に関して調べました。
<研究手法・研究成果>
藤田医科大学国際医療センターで精密検診を受けた92名(男性67名、女性25名)を対象に、(プレアルブミン、アルブミン、ビタミンB12)を従属変数、物理的消化(咬合力、咀嚼機能、嚥下機能質問票(EAT-10)もしくは化学的消化(制酸剤[PPIもしくはPCAB]内服、ピロリ菌抗体陽性、ピロリ菌除菌歴)、蛋白またはビタミン摂取量、年齢、性別、BMI、CRP(C反応性蛋白)を目的変数として多変量解析を行いました。

重要な知見として、

物理的消化については、栄養マーカー(プレアルブミン、アルブミン、ビタミンB12)と概ね関連が見られませんでした。
理由:これは咬合力、咀嚼能、嚥下機能の保たれていた方が多いためと考えられます。
化学的消化の中で、制酸剤はプレアルブミン濃度と負に関連しました。
理由:胃酸の分泌を抑えるとタンパク質の消化が抑制されるため、蛋白合成の原料であるアミノ酸の吸収が制酸剤により低下したためと思われます。ビタミンB12に関して関連が見られなかったのは、制酸剤の投与期間を考慮していないためと思われます。制酸剤の性質として、飲んだり飲まなかったりという方が意外と多い印象を受けます。なお、長期(2年以上)の制酸剤投与ではビタミンB12濃度を低下させるとの報告があります。
物理的消化、化学的消化に関係なく、血中プレアルブミン濃度およびビタミンB12濃度は、各々タンパク質摂取およびビタミンB12摂取量と正に関連しました。他方、アルブミン濃度はタンパク質摂取と関連は見られませんでした。
理由:血中プレアルブミン、ビタミンB12濃度がそれぞれの摂取量に正に関連することは、栄養マーカーとしての有用性を反映しているためと思われます。
物理的消化、化学的消化に関係なく、CRPはアルブミン、プレアルブミン濃度と負に関連しました。
理由:炎症によりアルブミン、プレアルブミンの合成が低下することを反映します。
本研究では、肝障害、腎障害、甲状腺機能がない患者さんがほとんどで、年齢、性別、BMI、炎症反応も考慮した上で、解析を行うことができました。
理由:甲状腺、肝障害、腎障害はプレアルブミン、アルブミン、ビタミンB12の濃度に影響を与えます。そういう影響を除外できたので、制酸剤とプレアルブミンの関連が明らかにできたと思います。


<今後の展開>
栄養不良の高齢患者では制酸剤の影響を考慮する必要があるかもしれません。特にタンパク質の摂取量が少ない場合、制酸剤によってタンパク質の吸収がさらに低下するのみならず、血中プレアルブミン濃度に代表されるようにタンパク質合成も低下し、最終的にサルコペニアのような病態を引き起こすことが懸念されます。こういう方には、白身魚やヨーグルト、豆腐など消化の良いタンパク質の方が良いかもしれません。今後、制酸剤を長期間経口摂取している患者で、蛋白質摂取量とサルコペニアの頻度との関連を引き続き調査したいと思います。


<用語解説>
プレアルブミン:アルブミン、グロブリンより半減期が短いため超早期の栄養状態の変化を知るのに有用であり、栄養状態のマーカーとして用いられる。プレアルブミンは半減期が約48時間と特に短く、変動幅も大きいことから術前・術後などの栄養状態の把握や、肝臓のタンパク質合成能の把握に有用である。また、炎症性疾患では、CRPなどのような急性相反応物質は高値となるが、逆にプレアルブミンは低値になることが多い。

アルブミン:肝臓で合成され、血清総タンパクの60〜70%を占める。膠質浸透圧の維持にかかわるため,アルブミンの低下では膠質浸透圧の低下により浮腫をきたすことが多い。また、栄養不良や肝障害により合成が低下する。腎疾患・胃腸疾患・滲出性疾患・体腔液の喪失なども反映する。

ビタミンB12:魚介類に含まれるビタミンのため、ビーガンの方では欠乏しやすい。特にDNA合成と調整に加え脂肪酸の合成とエネルギー産生に関与している。欠乏すると、貧血や神経障害を引き起こす。


<文献情報>
●論文タイトル
Oral Antacid Use Is Negatively Associated with Serum Prealbumin Levels in Japanese Individuals Undergoing Health Checkups

●著者
後田ちひろ1, 出口香菜子1, 山本(和田)梨紗子1, 田中紘子 2, 小野智咲女3, 吉田光由 2, 皿井正義4, 宮原良二 4, 佐々木ひと美4,飯塚勝美1,5(責任著者)

●所属
1 藤田医科大学 医学部 臨床栄養学講座
2藤田医科大学病院 歯科・口腔外科
3藤田医科大学 羽田クリニック
4藤田医科大学病院 国際医療センター
5藤田医科大学 食養部

●DOI
https://doi.org/10.3390/nu16213715
  



本件に関するお問合わせ先
学校法人 藤田学園 広報部 TEL:0562-93-2868 e-mail:koho-pr@fujita-hu.ac.jp

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