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VEXAS症候群患者は短期間では治療が困難で長期戦が予想される〜日本の前向きレジストリ研究で解明〜

(Digital PR Platform) 2024年10月09日(水)10時00分配信 Digital PR Platform

 横浜市立大学医学部 血液・免疫・感染症内科学教室の桐野洋平准教授らの研究グループは、日本では難治性疾患のVEXAS症候群*1患者の治療が難しく、感染症、悪性腫瘍、血栓症などを多く伴い、重症な疾患であることを報告しました。これは、現在の治療法には限界があることが分かり、今後の新たな治療法の開発を計画する際に重要な知見となります。この結果を踏まえ、より有効性の高い治療法の開発に貢献していきます。
 本研究成果は、国際科学誌「Rheumatology」オンライン版に先行公開されました(2024年9月28日)。

研究成果のポイント

本研究はVEXAS症候群に関する世界初の前向き*2観察研究である。
登録から3カ月後に完全寛解*3に達したVEXAS症候群患者はごくわずかだった。
悪性腫瘍、感染症、血栓症などの有害事象が短期間に多く確認された。












[画像1]https://digitalpr.jp/simg/1706/96296/500_345_202410081549256704d5f5ad709.jpg
図 VEXAS症候群前向きレジストリ研究の概要


研究背景









 VEXAS症候群は、軟骨・皮膚・肺・関節・骨髄などの全身に重篤な炎症を起こす難治性疾患で、UBA1というユビキチン化*4に関わるタンパク質の後天的な遺伝子変異によってじる疾患です[1,2]。今までの研究で、全国的に多くの患者さんが存在していることが分かっています[3]。しかしながら、日本のVEXAS症候群の患者さんの病状の変化や合併症についての詳細は分かっておらず、治療法の開発等の臨床研究を計画するための基礎的な情報が必要とされていました。

研究内容
 本研究では、2023年5月より2024年5月までの1年間に、全国のVEXAS症候群が疑われた55名の患者さんを対象としました。公益社団法人かずさDNA両研究所において、精度管理がなされた次世代シーケンサーを使用し、血液中のUBA1遺伝子のエクソン全長における後天的なモザイク*5変異(バリアント)の有無を調べたところ、55名中30名の患者さんが、モザイク変異を有することが判明しました。また、登録時と3カ月後の症状、投薬内容、合併症、採血での炎症所見についても併せて調査しました。その結果、登録から3カ月後もプレドニゾロン(ステロイド)の投与量の中央値は13mg/日と高い水準で維持されており、トシリズマブなどの有効性が確認されている薬剤が多く使用されていたにもかかわらず、完全寛解に達した患者さんはわずか7.4%で、大多数の患者さんにおいて病状が残存していました(図)。さらに3カ月以内に36.6%の患者さんに、グレード2以上の感染症、悪性腫瘍、血栓症などの合併症が発しました。以上より、海外の報告と同様に現時点でVEXAS症候群は重篤な疾患であると結論付けられます。
 
今後の展開
 現在の治療法では寛解に至ることが少ない、合併症の多い予後不良なVEXAS症候群には、新しい治療薬の開発が急がれます。本研究成果は、製薬企業などがVEXAS症候群の臨床研究を計画する際に、重要な参照データとなります。特に、VEXAS症候群の患者さんには合併症が多く発することから、感染症や血栓症の予防策も重要となることが想定されます。今回は3カ月間の観察でしたが、今後1年間での成績についても解析して報告する予定です。

研究費
 本研究は、AMED免疫アレルギー疾患実用化事業(課題番号JP24ek0410107)および厚労働科学研究費補助金(久留米大学 西小森隆太班長)の支援を受けて実施されました。

論文情報
タイトル: Low remission rates and high incidence of adverse events in a prospective VEXAS syndrome registry
著者:Yohei Kirino, Ayaka Maeda, Tomoyuki Asano, Kiyoshi Migita, Yukiko Hidaka, Hiroaki Ida, Daisuke Kobayashi, Nobuhiro Oda, Ryo Rokutanda, Yuichiro Fujieda, Tatsuya Atsumi, Dai Kishida, Hiroshi Kobayashi, Motoaki Shiratsuchi, Toshimasa Shimizu, Atsushi Kawakami,Kazuki Tanaka, Tomohiro Tsuji, Koji Mishima, Takako Miyamae, Anna Hasegawa, Kei Ikeda, Tomoya Watanabe, Yukie Yamaguchi, Ryuta Nishikomori, Osamu Ohara, Hideaki Nakajima, Japan VEXAS study group
掲載雑誌:Rheumatology
https://doi.org/10.1093/rheumatology/keae530






[画像2]https://digitalpr.jp/simg/1706/96296/500_91_202410081554536704d73dbeb34.jpg






用語説明

*1 VEXAS症候群:2020年に発見された希少な炎症性疾患で、主に成人男性に発症する。VEXASは「Vacuoles, E1 enzyme, X-linked, Autoinflammatory, Somatic」の頭字を取ったもので、骨髄内の多発空胞の存在、X染色体に関連したUBA1遺伝子変異、全身性の自己炎症性反応が特徴である。
*2 前向き研究:患者を登録し、あらかじめ定めた観察項目に基づいてデータを追跡する研究手法。この方法では、データの欠損が少なく、観察日をそろえて設定できるため、後ろ向き研究(既存データをあとから調査する研究)にべて質の高い研究が可能。
*3 完全寛解:VEXAS症候群における完全寛解とは、フランスのVEXAS症候群の後ろ向きデータに基づき提唱されたもので、@VEXAS症候群の症状がない、Aステロイドの投与量がプレドニゾロン換算で10mg/日以下、BCRPが1mg/dl以下である、という3つ全ての条件を満たした状態。
*4 ユビキチン化:細胞内で特定のタンパク質にユビキチンという小さなタンパク質を結合させるプロセス。この修飾は、結合された不要なタンパク質を分解したり、タンパク質を活性化するための目印として働く。
*5 後天的なモザイク:受精卵から成体になるまでの過程で、特定の細胞や組織に遺伝子の変異がじることを指す。この変異はまれた後に起こるため、体内の一部の細胞だけが異なる遺伝情報を持つ状態になる。つまり、同じ個体内で、遺伝的に異なる細胞が混在している状態を「モザイク」と呼び、これは後天的に起こる。VEXAS症候群では骨髄中の造血幹細胞(生殖細胞以外の細胞)の一部に後天的なUBA1遺伝子の変異が生じ、モザイク(変異がある細胞と無い細胞が混ざった状態)によって発症する。この変異は後天的なものであり、子どもに遺伝することはない。

参考文献など
[1]Beck DB, Ferrada MA, Sikora KA, Ombrello AK, Collins JC, Pei W, et al. Somatic Mutations in UBA1 and Severe Adult-Onset Autoinflammatory Disease. The New England journal of medicine. 383(27):2628-2638. 2020 Dec 31.
[2]Tsuchida N, Kunishita Y, Uchiyama Y, Kirino Y, Enaka M, Yamaguchi Y, et al. Pathogenic UBA1 variants associated with VEXAS syndrome in Japanese patients with relapsing polychondritis. Annals of the rheumatic diseases. 2021 Mar 31.
[3]Maeda A, Tsuchida N, Uchiyama Y, Horita N, Kobayashi S, Kishimoto M, et al. Efficient detection of somatic UBA1 variants and clinical scoring system predicting patients with variants in VEXAS syndrome. Rheumatology (Oxford). 2023 Aug 22.

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