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【中部大学】空間識失調の発生と訓練による解消を金魚の実験で確認 -- 航空機操縦ミスの減少などへの応用に期待 --

(Digital PR Platform) 2024年05月08日(水)14時05分配信 Digital PR Platform



中部大学大学院工学研究科ロボット理工学専攻の田所慎氏、山中都史美氏、同情報工学専攻の進士裕介氏、同大学工学部AIロボティクス学科の平田豊教授らは、金魚に並進と傾き運動、視覚刺激を与えるシステムを開発し、人と同様の空間識失調が生じることを、前庭動眼反射と呼ばれる反射的な目の動きを評価することにより発見した。

発表のポイント
方向感覚を失う空間識失調が人と同様に金魚でも発症することを発見。
短時間の訓練で空間識失調を解消できることを確認。
航空機事故や転倒防止など人への応用に期待。





 航空機事故の原因の約3割は操縦士が方向感覚を失う空間識失調(注1)という統計データがある。たとえば前方に加速している際に上方に傾斜していると勘違いするなどの状態(体重力錯覚(注2))が現れる(図)。航空機の操縦士に限らず、一般の人の乗り物酔いも空間識失調に起因すると考えられている。原因は耳の中にある加速度センサーである耳石器(注3)が並進運動の加速と重力に対する傾斜を区別できなくなるためと考えられている。しかし、空間識失調発症の詳細な神経メカニズムは不明であり、有効な発症防止法も未知である。

 中部大学大学院工学研究科ロボット理工学専攻の田所慎氏、山中都史美氏、同情報工学専攻の進士裕介氏、同大学工学部AIロボティクス学科の平田豊教授らは、金魚に並進と傾き運動、視覚刺激を与えるシステムを開発し、人と同様の空間識失調が生じることを、前庭動眼反射(注4)と呼ばれる反射的な目の動きを評価することにより発見した。


 さらに3時間以内の視覚と並進運動を協調させる訓練を実施した結果、空間識失調が解消されることを確認した。またこの空間識失調と解消過程を再現する数理モデルを構築し、脳内での空間識形成過程の計算理論も提案した。前庭動眼反射は運動時の視野安定化を実現する生存上重要な眼球運動であり、脳内で形成される空間識を反映し、人と金魚ではその神経メカニズムに高い類似性があることが知られている。


 したがって、今回の金魚で得られた知見が、航空機操縦士の空間識失調防止や、一般の人の不安定な視野に起因する転倒や乗り物酔い防止に役立つことが期待される。

 この研究は科学技術振興機構(JST)の助成を受け、戦略的創造研究推進事業(CREST)マルチセンシング領域の研究課題である「空間識の幾何による重力覚解明と感覚拡張世界創出」( https://www.crest-sog.org
)の一環として実施した。研究成果は神経科学の専門誌Frontiers in Neurology(電子版)に掲載された。



■論文の情報
・雑誌名:Frontiers in Neurology, Neuro-Otology
・論文タイトル:Learning capabilities to resolve tilt-translation ambiguity in goldfish
・著者:Shin Tadokoro,Yusuke Shinji, Toshimi Yamanaka, Yutaka Hirata
・DOI: 10.3389/fneur.2024.1304496
・URL: https://www.frontiersin.org/journals/neurology/articles/10.3389/fneur.2024.1304496/abstract

■用語説明
注1) 空間識失調
 航空分野で多く用いられる用語で、操縦者が自分または操縦している航空機の姿勢、位置、運動状態(方向、速度、回転)などの空間識を客観的に把握できなくなった状態。航空機の事故原因の約3割を占める。自動車やバス、揺れやすい電車、船、飛行機などの乗り物に乗った時に、吐き気、めまい、頭痛、顔面蒼白などの症状が起こる乗り物酔いの原因となる。宇宙飛行士が同様の症状を呈する宇宙酔の原因とも考えられている。

注2) 体重力錯覚
 内耳の耳石器が慣性の影響を受けて生じる錯覚。例えば水平等速飛行中に加速をすると、慣性力が後方に働くと同時に慣性力と重力との合力が操縦者の後下方に生じるが、この合力の方向を操縦者は下方、つまり重力の方向と誤認した結果、感覚的に機体の機首が上がっているように感じてしまう。

注3) 耳石器
 耳の最深部である内耳には音を感知する「蝸牛(かぎゅう)」と回転を感知する「三半規管(さんはんきかん)」と呼ぶ器官がある。「耳石器(じせきき)」は蝸牛と半規管の間にあり、重力や頭の運動など直線加速度を感知する役割を持つ。耳石器は感覚細胞の上にゼラチン質の耳石膜があり、その上に数多くの耳石がついている。ゼリーの上に小さな粒々が乗っているような状態で、頭を動かすとこの耳石が動くことで感覚細胞が刺激され、方向などを感知する仕組みになっている。この仕組みにより、機械的な加速度計と同様に、アインシュタインの等価原理により、並進加速時と重力に対する傾斜時には同一の応答をする場合がある。

注4) 前庭動眼反射
 頭部運動時にそれとは逆向きにほぼ同じスピードで眼球を回転させる反射運動。これにより、動物が動く際に頭部動揺が生じても見ているものがブレないで安定した視野が得られる。ビデオカメラの手ぶれ防止に似た"頭ぶれ防止"機能。魚類から人までほぼ共通した神経メカニズムで生じることが知られており、耳石器などからの頭部運動情報に基づき脳が空間識を形成し、頭部運動を補償する前庭動眼反射を生成する。したがって、空間識が誤って形成されると(空間識失調状態)、誤った方向に前庭動眼反射が生じる。

▼お問い合わせ先
【研究内容について】
 平田豊 中部大学 理工学部 AIロボティクス学科 教授
 電子メール yutaka@isc.chubu.ac.jp


▼本件に関する問い合わせ先
中部大学 学園広報部広報課
TEL:0568-51-7638
メール:cuinfo@office.chubu.ac.jp


【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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