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【弘前大学】寄生性扁形動物にはプラナリアに性を誘導する物質が含まれていることを解明 --「顧みられない熱帯病」、吸虫症撲滅を目指した創薬開発の手がかりにも

(Digital PR Platform) 2023年01月31日(火)14時05分配信 Digital PR Platform



弘前大学(青森県弘前市)農学生命科学部生物学科の小林一也教授の研究グループを中心とする国内多機関共同研究グループは、プラナリアを無性状態から有性状態に誘導することのできる有性化因子が寄生性扁形動物である単生類(主に魚類に感染)や吸虫類(主にヒト・家畜に感染)にも含まれていることを明らかにしました。本研究成果は今後、「顧みられない熱帯病」とされる吸虫症による健康被害の軽減などにつながるという波及効果が期待されます。この研究成果は、2023年1月20日に国際科学誌『iScience』に掲載されました。




【本研究のポイント】
・プラナリアを無性状態から有性状態に誘導することのできる有性化因子が寄生性扁形動物である単生類(主に魚類に感染)や吸虫類(主にヒト・家畜に感染)にも含まれていることを明らかにしました。
・メタボローム解析とトランスクリプトーム解析により、卵巣誘導物質を18種類同定しました。そのうち6種類はプリン代謝に関わる化合物であることから、プリン代謝が有性化機構に重要であることが示唆されました。
・プラナリアで知られていた有性化因子が寄生性の扁形動物にまで広く保存されていたことは、その下流のメカニズムも単生類・吸虫類の性成熟において保存されている可能性を強く示唆します。今後、安全なプラナリアをプラットフォームにして、有性化因子を出発とした性成熟の分子機構の解明や創薬研究が進めば、単生類・吸虫類による健康被害や経済的損失の軽減につながることが期待されます。

【本件の概要】
 自由生活性のプラナリアから派生したといわれる寄生性の単生類・吸虫類は扁形動物の中で最も繁栄しているグループです。これらの寄生虫の多くが宿主依存的に無性世代と有性世代を切り替えており、この生殖様式の転換が彼らの繁栄の礎になっています。特に吸虫類は、有性世代でわれわれヒトを含む哺乳類の内臓(肝臓や肺など)に寄生し吸虫症の原因となり、「顧みられない熱帯病」として世界規模での問題となっています。
 一方、プラナリアは季節などの環境要因で、分裂・再生による無性生殖と、生殖細胞を形成して他個体と交配する有性生殖を切り替えます。プラナリアでは無性個体に有性個体をエサとして与えることで無性状態から有性状態に誘導(有性化)できることが古くから知られていて、このことは有性個体に「有性化因子」と呼ぶ生理活性物質が含まれていることを意味しています。
 私たちは有性化因子を同定することで、これを手がかりにプラナリアの生殖様式転換の仕組みを解明できると考え研究を行ってきました。

 本研究では実験的に有性状態への転換をうながすことができるプラナリア、リュウキュウナミウズムシ(注1)(図1)を用いて、無性状態から有性状態に誘導することのできる有性化因子が、プラナリアとはかなり遠縁の寄生性のグループにも含まれていることを、高速液体クロマトグラフィー(注2)による分画解析によって明らかにしました。
 この予想外の結果から、一見、全く異なる現象にみえるプラナリア有性化機構が、単生類・吸虫類の性成熟の過程でも保存されていることが示唆されました。また、有性化因子を含んでいることがわかっているプラナリア卵カプセルを材料にしたトランスクリプトーム解析(注3)やメタボローム解析(注4)によって、有性化を促進する物質として働く卵巣誘導物質が18種類同定され、そのうち6種類はプリン代謝(注5)に関わる化合物であることから、プリン代謝が有性化機構に重要であることが示唆されました。
 本研究の成果は今後、広く扁形動物門に保存された有性化因子を出発とした分子機構の解明につながり、将来的には、有性化(性成熟)を阻害するアンタゴニスト(注6)を作製することで、顧みられない熱帯病とされる吸虫症による健康被害の軽減などにつながるという波及効果が期待されます。

 本研究成果は、2023年1月20日に国際科学誌『iScience』に掲載されました。

【用語解説】
(注1)リュウキュウナミウズムシ(Dugesia ryukyuensis)
 プラナリアは和名をウズムシとよびます。本研究では、1984年に沖縄で採集されたリュウキュウナミウズムシ(Dugesia ryukyuensis)1個体に由来する無性クローン集団、OH株(沖縄[Okinawa]で採集して弘前[Hirosaki]で株化したことに由来する)が用いられました。

(注2)高速液体クロマトグラフィー
 サンプル(液体)中に含まれる物質を化学的な性質(分子の大きさや極性など)によって分離し、検出できる方法。どのような化合物かまでは分からなくても、サンプル中にそれがどれくらい含まれているか、他の物質と分離して調べることができます。

(注3)トランスクリプトーム解析
 生物の体の中で発現している遺伝子(mRNA)を網羅的に解析する方法。どのような遺伝子がどれくらいの量で発現しているかを調べることができます。

(注4)メタボローム解析
 生物の体の中にあるさまざまな化合物(代謝産物)を網羅的に解析する方法。化学的な特徴をデータベースと照合する方法をとるので、主に既知の物質がターゲットとなります。人間がまだ把握していない、未知の化合物は残念ながら調べることができません。

(注5)プリン代謝
 プリン骨格をもつさまざまな化合物の代謝のこと。DNAやRNAの材料になる物質や、細胞の中で重要なシグナル伝達物質として働く物質などが含まれ、生物にとって重要な代謝経路のひとつです。

(注6)アンタゴニスト
 ターゲットの化合物の「似て非なる」物質。ターゲットの化合物が結合すべき受容体に結合することができてしまいますが、果たすべき機能を果たしません。結果的にターゲットの化合物の機能を阻害することになります。

【論文情報】
・掲載誌:国際科学誌 iScience
・論文タイトル:Sex-inducing effects toward planarians widely present among parasitic flatworms
・著者:Kiyono Sekii*, Soichiro Miyashita, Kentaro Yamaguchi, Ikuma Saito, Yuria Saito,Sayaka Manta, Masaki Ishikawa, Miyu Narita, Taro Watanabe, Riku Ito, Mizuki Taguchi, Ryohei Furukawa, Aoi Ikeuchi, Kayoko Matsuo,Goro Kurita, TakashiKumagai, Sho Shirakashi, Kazuo Ogawa, Kimitoshi Sakamoto, Ryo Koyanagi, Noriyuki Satoh, Mizuki Sasaki, Takanobu Maezawa, Madoka Ichikawa-Seki*, and Kazuya Kobayashi*(*: 責任著者)
・DOI:10.1016/j.isci.2022.105776


▼本件に関する問い合わせ先
弘前大学農学生命科学部生物学科
小林 一也教授
住所:青森県弘前市文京町3番地
TEL:0172-39-3587
メール:kobkyram@hirosaki-u.ac.jp


【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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