プレスリリース
シュローダーは2019年にインパクト投資の専門運用会社であるブルーオーチャードの株式過半数を取得しました。当レポートでは、COP27に参加したマリア・テレサ・ザッピアが、グリーン経済への「公正な移行 (Just Transition)」がなぜ人を中心に据えたものでなければならないのかを説明します。
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マリア・テレサ・ザッピア
ブルーオーチャード 副CEO、
シュローダー・キャピタル ヘッド・オブ・サステナビリティ&インパクト
人類の気候変動との闘いの物語はまだ終わりが見えませんが、これまでのところ、大規模で力を持った経済圏がこの物語の書き手を担ってきました。われわれは、この状況を変えなければなりません。
低炭素社会への移行が加速しています。ネット・ゼロ・エミッションへの移行を公約する国や企業の数は、飛躍的に増えています。今や世界の国内総生産(GDP)の9割がこうしたコミットメントによってカバーされています。
しかし、それだけでは十分ではありません。現実世界に目を向けると、現在の政策や公約では、地球の気温は2.7度上昇すると予測されています。2015年のパリ協定での目標は、長期的な気温上昇を2度(できれば1.5度)下回る水準に抑えることですが、現状は目標から大きく乖離しています。さらには、最も大きな痛みを感じることになるエマージング国やフロンティア国の人々は、自らを守るための十分な耐性が備わっていません。多くの場合、今後起こり得る気候変動関連の混乱を予測し、準備し、対応する能力は、すでに限界に達しています。
エマージング国やフロンティア国における気候変動への備えのレベルは国によって大きく異なりますが、全体としては非常に低いのが現状です。これらの経済の多くは、現在、先進国よりも化石燃料の使用に依存しており、ネット・ゼロ・エミッションを達成するための競争において、その土俵は異なると言えます。
低炭素で資源効率の高い、社会的によりインクルーシブな(包摂性の高い)経済への「公正な移行」を実現するためには、政府と実業界はそれぞれの公約やコミットメントを実現するためにより踏み込んで行動する必要があります。そして、グリーン経済を構築するだけでなく、エマージング国に住む人々と彼ら彼女らの人権を中心に据える必要があります。気候変動の影響を最も受ける人々が自らを守ることができるよう、支援しなければなりません。
エマージングに投資をする民間投資家にとっても同じことが言えます。炭素排出から脱却する経済的イニシアチブと、従業員、労働者、地域コミュニティに対する機会創出をどのように組み合わせるかを考えなければなりません。
投資家が取り得るアクションは、(少なくとも)3つあります。まず1つ目は、単に排出量を削減するだけではなく、気候変動への適応策、すなわちグラスゴー気候協定が定義する「気候変動の影響をすでに受けている人々を支援する」ことに取り組むことです。2つ目は、リスクを抱える人々のために設計された金融および保険プロダクトの改善を推進することです。そして3点目は、コミュニティからのフィードバックを通じてそのインパクトを測定する方法についても改善していくことです。
気候変動適応戦略への投資
まず最初に、何兆ドルに及ぶと推計される民間の新規投資資金が気候変動適応に向けられない限り、今世紀半ばまでにネットゼロを達成することはできないでしょう。
先進国は、エマージング国を支援するために毎年1,000億ドルを気候変動ファイナンスの形で動員することが求められていますが、その資金を効果的に展開するためには、投資家は、公正な移行と気候変動対応の公正さの両方をより幅広く推進するエマージング投資の実例を必要としています。
合計4兆4千億ドルを運用する開発系および主要なアセット・オーナーや運用者が創設メンバーとして参加する団体であるインパクト・インベスティング・インスティテュートの新しいイニシアチブである「Just Transition Finance Challenge (公正な移行のためのファイナンスにおける課題)」は、こうした必要な事例を生み出すことで、気候変動対応への資金フローをサポートすることを目指しています。
これまで投資家は、排出量削減による気候変動の緩和(Climate Mitigation)を主眼としてきましたが、2021年の国連気候変動会議(COP26)では、気候変動適応(Climate Adaptation)に向けた一歩を踏み出しました。会議の参加者は、エマージング国への気候変動資金配分の総額の50%を気候変動適応に戦略的に振り分けることとし、その大部分を気候変動に対して脆弱な国々に割り当てることを決定しました。
年間の気候変動適応にかかる費用は、2030年にはエマージング国で3,000億ドルに達する可能性があり、一見すると、COP26の配分は実行可能でシンプルな投資のように見えます。しかし、最新の利用可能なデータによると、すべての国において、気候変動適応への経済的な支援は、気候変動緩和に比べてはるかに低いままです。気候変動の影響を最も受ける人々の備えを強化するなど、気候変動適応に向けた活動の加速は不可欠であり、イノベーションはこの活動の成功のための重要な要素になります。
革新的な気候変動適応戦略は、気候変動に強い作物や新しい灌漑システムの開発など、さまざまな形で実現することができます。私たちが注力する効果的な戦略のひとつに、新たな気候保険市場の創出があります。エマージング市場に特化したインパクト投資は、零細・中小企業や低所得世帯を対象に、異常気象をカバーするカスタマイズした気候変動保険へのアクセスを提供します。多くの零細農家にとって、保険の対象となる作物や家畜が唯一の家計収入源であるため、保険は生計と回復力の鍵を握っているのです。気候変動適応戦略は、現在、多くの気候変動ファイナンスのうちのひとつの柱となっています。
生命保険・損害保険加入度分布
人口一人当たり保険料 (2019年、米ドルベース)
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Source: SwissRe Institute Sigma Explorer, 2019; SwissReWorld insurance: the great pivot east continues, 2019; McKinsey: 2019 global insurance trends and forecasts, 2019.
気候変動保険を通じて低所得者層を気候変動から守る
ブルーオーチャードは、8年前から気候変動保険による低所得者層の保護に注力しています。エマージングのアントレプレナーを顧客基盤として持つ地元の金融機関を通じて、気候変動保険の流通を支援してきました。また、保険会社やブローカーのバリューチェーンに沿った投資や、気候変動関連リスクをより適切に評価する気象データ予測ツールなど、保険セクターのための新しい技術を生み出すインシュアテック企業への投資も行っています。
その一例がSkymet Weather Services Private Ltdで、インド国内にある4,000以上の自動気象観測所を通じて、気象や作物生産量関連の情報サービスを保険部門に提供しています。ブルーオーチャードの投資により、同社は観測所のネットワークを拡大し、気象データと作物収量測定の両方で新たな契約を獲得しました。現在では2,000万人以上の農家にサービスを提供し、スマートフォンで利用できるインデックスベースの家畜・作物保険を通じて、気候や気象現象が収穫に与える影響をより適切に管理できるようになりました。
また、ナイジェリアの保険会社であるRoyal Exchange General Insurance Company Ltdは、100年以上の歴史を持つ保険会社で、農業分野でも大きなポートフォリオを持っています。同社は一般的なリスク保険から専門的なリスク保険まで幅広い商品を提供しており、今回のブルーオーチャードによる投資により、特に気候変動の影響を受けやすい低所得層の農民にも保険が行き渡るようになると期待されます。
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Source: BlueOrchard
また、ブルーオーチャードは南アジアのノンバンクでマイクロファイナンスを行うKashf Foundationと提携し、同社はパキスタンで最大のマイクロインシュアランス・ソリューションの提供会社となりました。健康保険と生命保険を中心に、300万人以上のお客様にマイクロインシュアランスを提供しています。Kashfは融資を利用して、2017年に同社初の農村向け商品である「Kashf Mahweshi Karza」という家畜向けローンを発売しました。この商品には、パキスタンの乳牛を対象とした保険が含まれており、牛が病気になったり死亡したりした場合の返済費用をカバーするものです。この支払いによって、家畜を失った農家は新しい家畜を購入することができ、債務不履行や信用度の低下を防ぐことができます。気候変動の影響により、干ばつや洪水、病気などの被害が増加すると、家畜の死亡率に影響が出るため、このようなセーフティネットは特に重要です。
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Source: Kashf Foundation
コミュニティからのフィードバックを通じたインパクトの測定
すべてのステークホルダーの意見をプロダクト設計、モニタリング、評価に反映させることは、公正な移行を実現するために重要です。
ブルーオーチャードの投資における意図を確実に実現するために開発した調査へのフィードバックによると、全体として、地域社会は気候変動保険から恩恵を受けていることがわかりました。調査対象者(保険に加入している者と加入していない者)のうち、3分の2は気候変動によるショックに見舞われたことがあり、保険に加入している人のうち45%は、気候変動後に貯蓄に頼ることができました。一方、保険に加入していない人のうち、貯蓄に頼れたのはわずか18%でした。同様に、保険加入者は資産を売却せずにショックから回復できる可能性が10%高くなりました。
結果として、保険金請求者は、請求しなかった人に比べてショックから回復する可能性が2倍以上高く、保険金請求者の50%が回復したのに対し、保険金請求しなかった人は19%でした。さらに、保険金受取人は、支払われた保険金の大部分を事業に再投資しています。
エマージング市場は、地球上で最も影響力のある市場になる可能性を秘めています。ある意味では、すでに現実に起きているとも言えます。エマージング国は世界の人口の大半を占め、世界のGDPの大部分を生産し、先進国よりも速いスピードで経済成長を遂げています。気候変動に対して脆弱な地域社会の長期的な回復力を確保することは、グリーン経済への移行の中心に人々を据えることであると考えます。そして、気候変動への対策が世界的に遅れている今、最も影響を受けやすい人々が気候の不確実性にうまく対処できるようにすることは必要不可欠なのです。
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投資で、変化を加速
1870年(明治3年)、日本初の国債発行の主幹事として鉄道敷設に貢献したシュローダー。
この一つの投資が日本近代化の一歩となったように、
投資は世界を変えていく力になると私たちは信じています。
「増やす」だけじゃない、よりよい明日をつくる投資を、これからも、皆さまとともに。
関連リンク
シュローダーの視点
https://www.schroders.com/ja-jp/jp/asset-management/insights/