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プレスリリース

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日本電信電話株式会社

窒化アルミニウム系ショットキーバリアダイオードの電流輸送機構を解明 〜低炭素社会に寄与する新しいパワー半導体デバイスの実現に向け大きく前進〜

(Digital PR Platform) 2024年12月10日(火)14時06分配信 Digital PR Platform

発表のポイント

NTTは、AlN系半導体の結晶成長・デバイス技術の開発により、ほぼ理想的な特性を示すAlN系ショットキーバリアダイオード(SBD)の作製に成功しました。
東京大学は、この理想的なAlN系SBDの電流輸送機構がトンネル効果に起因した熱電子電界放出であることを解明し、その理解に基づいた解析からショットキー接触の特性を決定する最重要物性値である障壁高さとその温度依存性を明らかにしました。
ショットキー接触の電流輸送機構の解明と物性値の決定はデバイス設計に不可欠であり、本成果はAlN系デバイスの実用化に向けた重要な知見といえます。



[画像1]https://digitalpr.jp/simg/2341/100713/500_336_2024121009472267578f9a58b99.png


AlN系SBDの電気的特性の測定の様子

概要
 東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻の前田 拓也講師の研究グループ(以下、東京大学)と日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田明、以下、NTT)は、窒化アルミニウム(AlN)系半導体(注1)を用いたショットキーバリアダイオード(SBD)(注2)の電流輸送機構を解明しました。NTTは、低抵抗のオーミック電極形成技術およびリーク電流の小さいショットキー電極形成技術の開発により、ほぼ理想的な電流-電圧特性を示すAlN系SBDを作製しました。東京大学は、この理想的なSBDの電流-電圧特性や容量-電圧特性の系統的な測定と緻密な解析に基づく考察により、電流輸送のメカニズムがトンネル効果に起因した熱電子電界放出(注3)であることを世界で初めて解明し、ショットキー接触(注2)の特性を決定する最重要物性値である障壁高さとその温度依存性を明らかにしました。本成果は、AlN系電子デバイスの実現に寄与します。

発表内容
〈背景と課題〉
 窒化アルミニウム(AlN)は6.0 eVの大きなバンドギャップエネルギー(注4)を持つウルトラワイドギャップ半導体です。このAlN系半導体は極めて高い絶縁破壊電界を有していることから、例えば、電気自動車のモーター駆動・充電に伴う電気の交流/直流変換や周波数変換といった電力変換の電力損失を大きく低減できるパワー半導体デバイス材料であり、AlN系パワー半導体デバイスの実用化は低炭素社会の実現に貢献します。電力変換を行う電子機器の作製にはトランジスタとダイオードが不可欠であり、NTTではこれまで世界に先駆けてAlNトランジスタを実現しています(注5)。一方で、ダイオードの作製プロセスは世界的に未成熟であり、オーミック電極の大きな接触抵抗によって理想的な特性のダイオードは報告されておらず、これまでその電流伝導機構も十分には解明されていませんでした。

〈成果の内容〉
 AlN系半導体は、バンドギャップエネルギーが大きいため電極金属と半導体の接触界面に形成される電子に対する障壁高さが非常に大きく、低抵抗のオーミック電極を形成することが困難です。NTTはAlNトランジスタ作製で培ったSiドープ組成傾斜窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)層(注6)を利用する低抵抗オーミック電極形成技術を発展させ、接触抵抗を従来の10分の1以下に低減しました。これはAlNに対する世界で最も低い接触抵抗であり、理想的な特性を得るための必要条件となります。さらに、AlN系半導体のドライエッチング時のプラズマダメージを軽減することで、AlNとショットキー電極間のリーク電流を抑制しました。その結果、これまでで最も急峻な電流立ち上がり特性を示し、優れた整流性を有するAlN系SBDの作製に成功しました(図1)。


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図1:AlN SBDの光学顕微鏡写真(左図)とデバイス構造の断面図(右図)

左図:AlN系SBDの光学顕微鏡像。円形パターンがショットキー電極。右図:デバイス構造の断面図。組成傾斜n型AlGaN層/n型AlN層は有機金属気相成長法(MOVPE)により炭化ケイ素(SiC)基板上に成長。反応性イオンエッチングにより組成傾斜n型AlGaN層の一部を除去することでn型AlN層を露出させ、その上にショットキー電極を形成。

 東京大学は、上記のAlN系SBDの電気的特性を詳細かつ系統的に評価しました。特に、容量特性の評価において極低周波(< 10 Hz)を用いる重要性を指摘し、半導体物理に基づいて正確な実効ドナー密度および拡散電位・障壁高さを得ることに成功しました。また、この電流輸送機構について、高い実効ドナー密度と大きな拡散電位によってショットキー界面に高電界が生じ、ポテンシャル障壁が薄くなることから、トンネル効果に起因した熱電子電界放出が発現していると考察しました。理論計算により熱電子電界放出による電流値を求めたところ、容量-電圧測定で得られた障壁高さとほぼ同様の値を用いることで実験値と一致することを確認し、電流輸送機構が熱電子電界放出であることを解明しました(図2)。さらに、室温から300℃の広い温度領域で電流-電圧特性を測定・解析し、障壁高さの温度依存性を明らかにしました。これらは、ほぼ理想的な電流立ち上がり特性を示すAlN系SBDを利用し、緻密な測定・解析を行ったことで初めて得られた成果です。


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図2:AlN系SBDの順方向電流-電圧特性

実線は実験値、点線は計算値。青色が熱電子放出(TE)、赤色がトンネル効果を考慮した熱電子電界放出(TFE)。容量特性から得た障壁高さ(e_b)とほぼ同様の値を用いることで実験値と計算値が良く一致し、本研究で用いたAlN系SBDにおける電流輸送機構がTFEであることを解明。

〈今後の展望〉
 ショットキー接触は電子デバイスの根幹をなす基本構造であり、特に障壁高さはSBDの順方向立ち上がり電圧や逆方向リーク電流を決定する最重要物性値です。本研究によって、ほぼ理想的な特性のAlN系SBDが得られたこと、この理想に近いAlN系SBDを用いて電流輸送機構と障壁高さの温度依存性を解明したことは、AlN系半導体デバイスの発展に大きく貢献します。今後、AlN系半導体を用いた低損失なパワーデバイスを実現することで、低炭素社会実現への貢献が期待されます。

発表者・研究者等情報                                      
東京大学
 大学院工学系研究科電気系工学専攻
  前田 拓也 講師
  若本 裕介 修士課程
  棟方 晟啓 修士課程

 工学部電気電子工学科
  佐々木 一晴 学部生

 NTT物性科学基礎研究所
  廣木 正伸 主任研究員
  平間 一行 グループリーダー
  熊倉 一英 研究当時:所長
  谷保 芳孝 上席特別研究員

発表学会                                        
学会名:70th IEEE International Electron Devices Meeting(IEDM 2024)
会期:2024年12月7〜11日
    (論文公開は12月7日、発表は12月11日16:00-16:25。いずれも米国太平洋時間。)
題名:Thermionic Field Emission in a Si-doped AlN SBD with a Graded n+-AlGaN Top Contact Layer
著者名:Takuya Maeda*, Yusuke Wakamoto, Issei Sasaki, Akihira Munakata,Masanobu Hiroki, Kazuyuki Hirama, Kazuhide Kumakura, Yoshitaka Taniyasu

研究助成
本研究の一部は、科研費「若手研究(課題番号:23K13362)」の支援により実施されました。

用語解説
(注1)窒化アルミニウム(AlN)系半導体:
AlNはバンドギャップエネルギーが6.0 eVと極めて大きく、ウルトラワイドギャップ(Ultrawide bandgap, UWBG)半導体として注目を集めている。深紫外光デバイスとしての応用に加え、近年では、高い絶縁破壊電界を示すことからパワーデバイスや高周波デバイスとしての応用も期待されている。また、バンドギャップエネルギーが極めて大きいため、真性キャリア密度が桁違いに低く、高温動作可能な半導体デバイスとしての応用も期待されている。また、GaNやInNなどの窒化物半導体と混晶やヘテロ接合を形成することができるため、エネルギーバンド構造の変調や分極誘起ドーピングの活用が可能である。

(注2)ショットキー接触・ショットキーバリアダイオード(SBD):
金属と半導体により接合を形成した際、金属の仕事関数と半導体の電子親和力の差に応じて半導体側から金属側へ電子が拡散し、エネルギー障壁と内部電界を有する空乏領域が形成される。このような接合をショットキー接触と呼ぶ。半導体側のポテンシャルを外部電圧によって変化させ、半導体側から金属側へ電流を流すことができる。すなわち、ダイオード特性(整流性)を示す。

(注3)熱電子電界放出:
ショットキー接触界面に高電界が印加される際に熱分布する電子がエネルギー障壁をトンネルすることにより電流が生じる。これを熱電子電界放出(Thermionic Field Emission, TFE)と呼ぶ。特にワイドギャップ半導体は絶縁破壊電界が高く、高電界を印加することができるため、GaNやSiCなどのSBDに大きな逆バイアス電圧を印加した際に生じるリーク電流を支配する電流輸送機構として知られている。また、高濃度にドーピングした半導体においては順方向特性においても熱電子電界放出が見られることが知られている。

(注4)バンドギャップエネルギー:
半導体や絶縁体などの固体材料においては、価電子帯と伝導帯の間にエネルギー差(ギャップ)が存在する。原子間の結合の強さに概ね相当し、バンドギャップエネルギーが大きいほど物理・化学的に堅牢強固であり、特に高電界に耐えられるようになることが高耐圧デバイス応用上で有利である。

(注5)世界初のAlNトランジスタの実現:
https://group.ntt/jp/newsrelease/2022/04/22/220422a.html

(注6)組成傾斜窒化アルミニウムガリウム(AlGaN):
AlGaNはAlNとGaNの混晶であり、AlとGaの組成比を変えることでバンドギャップエネルギーを変調させることができる。Al組成を低くすることで、障壁高さを低くすることができる。n型AlN上に高Al組成から低Al組成に連続的に変化させた組成傾斜AlGaNを形成することで良好なオーミック接触を実現した。ただし、窒化物半導体は、金属原子と窒素原子の電気陰性度が異なることに起因して強い分極を有しており、組成比を変えることで分極が変化する。本研究での成長方向(metal極性、<0001>軸方向)に対してAl組成が減少するように組成傾斜させている場合、分極誘起ドーピングによって負の固定電荷(分極電荷)とそれに応じて正孔が誘起され、その正孔濃度を十分上回る量のSiドーピングを行うことでn型組成傾斜AlGaN層を形成している。

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