プレスリリース

  • 記事画像1
  • 記事画像2

正常な精子機能の鍵となるタンパク質の役割を解明

(@Press) 2016年04月13日(水)13時00分配信 @Press

【概要】
 順天堂大学大学院医学研究科・環境医学研究所の荒木慶彦先任准教授らの研究グループは、精巣内生殖細胞上の膜タンパク質TEX101/Ly6k複合体(※1)が、生体内で受精能を有する精子産生に極めて重要な働きを担うことを分子レベルで明らかにしました。本研究成果は、これまで全不妊症の1/3を占めるとされる「原因不明」ヒト不妊症の原因の一端を解明する手がかりとなる可能性があります。本研究は英科学誌Scientific Reports電子版に発表されました。

【本研究成果のポイント】
・精巣内の一つのタンパク質の欠損が分子複合体の生合成機構に大きな影響を及ぼす
・TEX101/Ly6k複合体の安定形成が精子の完全な機能発現に重要であることを解明
・TEX101とLy6kに起因する男性不妊症の存在や治療戦略構築ができる可能性

【背景】
 先進諸国では急速な高齢化と不妊症の増加も含めた「少子化」が深刻な社会問題になっています。少子化問題を解決する上で「生殖機構の解明」は重要な研究課題の一つです。哺乳動物の雄性生殖細胞にはGPIアンカー型に分類される膜タンパク質(※2)が存在しており、生殖過程に重要な役割を果たしているものが知られています。その中で、TEX101/Ly6k複合体の重要性は示唆されてはいましたが、精子機能への関与について詳細は不明でした。生殖細胞特異的GPIアンカー型タンパク質TEX101及びその共役分子Ly6kのノックアウト(KO)マウスは、それぞれ、形態や運動性等でみると一見正常な精子を産生します。しかし、これらの精子は「体外受精法」で受精はできますが、生体内では子宮から卵管に移行することが出来ず、不妊になります。そこで、原因不明の不妊メカニズムを明らかにすることを目的として、本研究では、生殖機構におけるTEX101/Ly6kの役割について、Tex101 KOマウスにおけるLy6kの発現動態を解析し、これら二分子の生体内相互作用を詳細に検討しました。

【内容】
 本研究ではTex101 KOマウス精巣におけるLy6kの発現を生化学・免疫組織化学的手法を用いて解析し、転写・翻訳活性は定量的RT-PCR・マイクロアレイ及びポリソーム解析法(※3)により評価しました。 その結果、TEX101非存在下では、Ly6kは正常に転写・翻訳されて産生されていますが、この膜タンパク質は相補的分子のTEX101が存在しないと生殖細胞内に安定して存在することができず、すみやかに分解されてしまうことが明らかになりました(図1)。また、これら二分子が安定して発現している培養細胞を用いて、それぞれ一方の遺伝子の働きを阻害したところ、その相補的分子の発現が劇的に減少することがわかりました。この結果はTEX101及びLy6kがそれぞれ単独で機能しているのでは無く、これらGPIアンカー型タンパク質複合体の安定形成が、卵管を通過し受精を成功させる生体内の正常な精子機能に極めて重要であることを示しています。これは、不妊の原因を単一分子と想定していた従来の研究に一石を投じ、また、その発生メカニズムの解明が困難であった雄性不妊症の病態生理の一端を理解する上で重要な知見です。

【今後の展開】
 本研究の標的分子であるTEX101とLy6kそれぞれのKOマウスは、ADAM3(※4)と呼ばれる分子の機能不全を導くことで、不妊になると考えられていました。ところがADAM3 KOマウスと同様に卵管通過障害を示すKOマウスは多数知られており、一見関連性がないと考えられる多くの因子が一つでも欠損すると、なぜADAM3の機能がおかしくなるのかが大きな謎でした。本研究では精巣内の一つのタンパク質が欠損した結果、他の同様の活性を持つタンパク質が、その遺伝子には影響することなく激減することを明らかにしました。つまり、精子細胞膜上で受精に重要な働きを持つとされる複合体において、それぞれの分子の欠損が他方の分子の安定性に大きな影響を与え、不妊になる分子機構(図2)を初めて示した点に意義があります。不妊症のような多岐的な原因による疾患については「体外受精法」の正しい適応決定を含めた新しい視点に立脚した不妊症学の基礎構築が重要です。今後、これらGPIアンカー型膜タンパク質のヒト相同体と「不妊症」との関連解析を進め、男性不妊症の更なる診断・治療指針への理論構築を目指します。

【用語解説】
※1 TEX101/Ly6k複合体
マウスにおいて正常な精子産生のための重要因子。ヒトを含めた哺乳動物にはその相同体が広く同定されている。TEX101 は生殖細胞に特異的に発現する GPIアンカー型タンパク質であり、精細管の中では精原細胞を除く生殖細胞に発現している。精巣上体尾部の成熟精子には検出されないが、この分子及び精巣内での共役分子 Ly6k をそれぞれ欠損した精子は、形態・運動性ともに正常で体外受精も可能である。しかし、体内ではこれらの精子は卵管から先に移行できず、不妊となる。

※2 GPIアンカー型タンパク質
細胞膜を構成する膜タンパク質の中には、自身は細胞膜には直接結合していないが、脂質(グリコシルホスファチジルイノシトール (GPI))による修飾を受け、そのGPIを錨のようにして細胞膜に結合するものがあり、これを GPIアンカー型タンパク質と呼ぶ。これまで哺乳動物では100種類以上が同定されている。

※3 ポリソーム解析法
リボソームの結合数に応じて比重が変化することを利用した mRNA を分画・解析する方法。ショ糖密度勾配遠心法を用いて分画する。リボソームがより多く結合した mRNA(ポリソーム)ほど翻訳活性が高いとされる。

※4 ADAM3(A disintegrin and metalloprotease 3)
精子膜表面にあるタンパク質で精子の卵管内移行及び卵透明帯結合に必須とされる。この分子を欠損させると精子は子宮から卵管に移行できなくなり不妊となる。卵管へ移行できなくなる表現型を示す遺伝子欠損マウスは多数あるが、このような表現型は受精に必須分子ADAM3の機能不全を導くためと説明されている。TEX101やLy6kはヒトにも相同体は存在するが、ヒト精子ではADAM3は同定されていない。

【原著論文】
雑誌名:Scientific Reports ( http://www.nature.com/srep/ )
タイトル:TEX101, a glycoprotein essential for sperm fertility, is required for stable expression of Ly6k on testicular germ cells
著者名:Shuichiro Endo, Hiroshi Yoshitake, Hiroki Tsukamoto, Hideyuki Matsuura, Ko Kato, Mayumi Sakuraba, Kenji Takamori, Hiroshi Fujiwara, Satoru Takeda & Yoshihiko Araki
Scientific Reports 6, Article number: 23616 (2016)  doi:10.1038/srep23616

本研究は、日本学術振興会学術研究基金助成金の助成をうけ、大阪大学、奈良先端科学技術大学院大学、金沢大学との共同研究により実施しました。




プレスリリース提供元:@Press

推奨環境(ブラウザーのバージョン)
Microsoft Internet Explorer 6.0以降、Mozilla Firefox 2.0以降、Apple Safari 3.1以降
「スケジュール調整機能」は、Internet Explorer 6.0以降でのみ動作します。
環境依存文字については、正しくご利用いただけない場合がございます。

このページの先頭へ戻る