1. 本人から自己の保有個人データの開示を求められた後に、開示対象情報の全部または一部を削除することは違法である。


2. 業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合は開示を拒むことができる。


3. 業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある程度の理由で、開示を拒むことはできない。


【答え】


1. ○

2. ○

3. ×


【解説】

個人情報取扱事業者は、お客様本人から、自分の「保有個人データ」の開示を求められたときは、原則として書面で、遅滞なく、その保有個人データを開示しなければなりません(法25条1項)。


1.開示申請受領後にお客様の保有個人データを削除していいか


開示申請により開示対象となった保有個人データについては、事業者の判断で自由に削除することはできません。開示の義務を免れるために削除した場合は、法25条1項の定める開示の趣旨に反する行為として違法と解されることになるでしょう。

なお、一般に保有個人データは、個人情報取扱事業者において削除の権限を有するデータですから、法令で保存義務を課されていない限り、また契約において保存が義務付けられていない範囲で、また、お客様への債務の履行に支障がない範囲で削除することができます。


2.開示しなくてよいケース


お客様から開示申請があった場合は、その開示範囲を確認し、原則として全部開示することになりますが、開示しなくてよいケースがあります。次の3つです。


(1)本人又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合(法25条1項1号)

例えば、医療機関等において、病名等を開示することにより、本人の心身状況を悪化させるおそれがある場合などです(経済産業分野ガイドライン参照)。


(2)当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合(法25条1項2号)

例えば、試験実施機関において、採点情報のすべてを開示することにより、試験制度の維持に著しい支障を及ぼすおそれがある場合、同一の本人から複雑な対応を要する同一内容について繰り返し開示の求めがあり、事実上問い合わせ窓口が占有されることによって他の問い合わせ対応業務が立ち行かなくなる等、業務上著しい支障を及ぼすおそれがある場合などがそれにあたります(経済産業分野ガイドライン参照)。


(3)他の法令に違反することとなる場合(法25条1項3号)

例えば、金融機関が「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」第54条第1項に基づいて、主務大臣に取引の届出を行っていたときに、当該届出を行ったことが記録されている保有個人データを開示することが同条第2項の規定に違反する場合がそれにあたります(経済産業分野ガイドライン参照)。


3.指定暴力団の構成員であることの記載は開示対象から除外できるか?


当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合(法25条1項2号)、または、当該個人情報取扱事業者の労働者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合(法25条1項1号)に該当すると判断して、開示対象から除外することができます。

【監修者】
鈴木 正朝(すずき・まさとも)


新潟大学法科大学院 教授
1962年4月生まれ。
中央大学大学院法学研究科博士前期課程修了 修士(法学)、情報セキュリティ大学院大学博士後期課程修了 博士(情報学)。専門は情報法。
ニフティ(株)を経て、現職。この間,山口大学,京都女子大学等の非常勤講師、(独)メディア教育開発センター客員教授を兼任。学外活動として、情報ネットワーク法学会理事、経済産業分野個人情報保護ガイドラインやJISQ15001の作成やプライバシーマーク制度の創設にかかわる。
主著は『個人情報保護法とコンプライアンス・プログラム』(商事法務)岡村久道弁護士との共著『これだけは知っておきたい個人情報保護』(日本経済新聞社)は、 2005年のベストセラーとなる。その他著書論文多数。

ホームページ:http://www.rompal.com/

鈴木氏執筆の過去掲載コラムはこちら
『どんと来い、個人情報保護法』

[イラスト]

加藤 豪(かとう ごう)

大阪府出身。ユーモアを含んだ勢いとコントラストの強いカラーのイラスト、人の心理をテーマにしたちょっとシュールな4コマ漫画、短編等を制作しています。

■ホームページ : http://www.occn.zaq.ne.jp/kato5/