1. 委託先が委託された個人データを紛失した場合、委託先は安全管理または従業者の監督の義務を尽くしていたか否かが問われる。

2. 委託先が委託された個人データを紛失した場合、委託元は委託先の監督の義務を尽くしていたか否かが問われる。

3. 本人の同意を得て、その個人データを第三者に提供した場合、提供した事業者は、提供後の紛失等の事故について原則として責任を負うことはない。


【答え】


1. ○

2. ○

3. ○




【解説】

個人情報取扱事業者である委託先が委託された個人データを紛失した場合、安全管理(法20条)または従業者の監督(法21条)の義務について問われるとともに、委託元(個人情報取扱事業者)においても、委託先の監督(法22条)の義務を尽くしていたか否かが問われることになります。

一方、本人の同意を得て、その個人データを第三者に提供(法23条1項)していた場合については、提供後の紛失等の事故について原則として責任を負うことはありません。

1.業務のモデルと法的構成

簡単に言うと、個人データの「委託」とはそれを“預ける"こと、個人データの「第三者提供」とはそれを“あげる"ことをいいます。

事実関係から自ずと「委託」か「第三者提供」かが決まってしまう場合もあります。例えば、自社の社員の給与計算を情報処理会社にお願いする場合、自社の社員情報を事前に引き渡す必要がありますが、これはその業務の性質上、明らかに「委託」であって「第三者提供」ではありません。社員の個人データを情報処理会社にあげてしまうということはあり得ないからです。

一方、「委託」とするか「第三者提供」とするかを選択できる場合もあります。どのような業務モデルにするか契約書などを整えることで、その法的な構成を決めることができるケースもあります。

例えば、今回の事例においては、次の(1)と(2)の業務形態があり得るところです。法的な構成としては次の1から4が考えられます。

(1)自社によるサービス提供

X社が顧客にある製品を販売するに際して、設置及び保守(メンテナンス)サービスをオプションとして自ら提供するモデルです。

1. 委託型(本人→X社・・・Y社)

X社からY社に宅内工事を含むX社製品の設置及び保守業務を委託し、その業務に必要なX社の顧客情報(個人データ)をY社に事前に引き渡す(委託する)という方式です。

(2)他社サービスの紹介

X社が顧客にある製品を販売するに際して、そのオプションとしてY社の製品設置及び保守サービスを紹介するモデルです。


2. 第三者提供型(本人→X社→Y社)

顧客に別途Y社宛の申込用紙に氏名、住所等必要事項を記入する負担を強いることのないように、事前に同意を得て、顧客情報(個人データ)をX社からY社に第三者提供するという方式があります。

3. (Y社による)直接取得型(本人→Y社)

顧客にY社のパンフレットや申込用紙等を渡し、顧客に直接Y社に申し込んでもらうという方式もあります。この場合、顧客情報(個人情報)はX社を経由することがありません。

4. 取得の委託型(Y社→X社←本人)

顧客にY社の申込用紙等を渡し記入頂いたものをX社がいったんお預かりしてY社に届けるという方式もあります。この場合、顧客情報(個人情報)はX社を経由することになります。これは、いわばY社の営業行為をX社が受託していることになり、Y社の個人情報の取得の委託を受けていると評価されることになります。

ただし、厳密に言えば、申込用紙(紙媒体)を日付順に並べてそのまま引き渡すだけであれば、個人情報であっても個人データではありませんので、個人情報保護法上の安全管理措置等の問題は発生しないことになります。(もちろん顧客情報の漏えいについて民事的責任は問われますし、事実上の苦情対応の問題が発生します。)

2.委託と第三者提供

委託と第三者提供、それぞれの長所と短所を比較すると、次の表のとおりとなります。委託とするか第三者提供とするかを選択できる場合には、その業務のモデルをどのように構成するかの検討事項の一つに、下表の点も加えておくことが重要でしょう。

【監修者】
鈴木 正朝(すずき・まさとも)


新潟大学法科大学院 教授
1962年4月生まれ。
中央大学大学院法学研究科博士前期課程修了 修士(法学)、情報セキュリティ大学院大学博士後期課程修了 博士(情報学)。専門は情報法。
ニフティ(株)を経て、現職。この間,山口大学,京都女子大学等の非常勤講師、(独)メディア教育開発センター客員教授を兼任。学外活動として、情報ネットワーク法学会理事、経済産業分野個人情報保護ガイドラインやJISQ15001の作成やプライバシーマーク制度の創設にかかわる。
主著は『個人情報保護法とコンプライアンス・プログラム』(商事法務)岡村久道弁護士との共著『これだけは知っておきたい個人情報保護』(日本経済新聞社)は、 2005年のベストセラーとなる。その他著書論文多数。

ホームページ:http://www.rompal.com/

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『どんと来い、個人情報保護法』