気概を込めた1枚の企画書

株式会社 本田技術研究所
四輪R&Dセンター LPL
主任研究員
関 康成氏

2007年の夏、「インサイト」開発の全体責任者を務める関康成氏は、気の重い夏期休暇を送ることになってしまった。開発プロジェクトそのものは2006年1月にスタートし、作業は順調に進んで、プロトタイプまでできていた。通常なら、ここまでくれば後は量産まで一気に突っ走れる。

ところが、ハード面でのスペックがほぼ固まりかけたここにきて、「カタログに掲載するモード燃費はともかく、実用燃費ではライバル車に負けたくない」という声が社内で上がった。これが、四輪開発センター LPL 主任研究員の肩書きを持つ関氏の「夏休みの宿題」となり、彼の気を重くさせていたというわけだ。

実用燃費はドライバーの運転方法によって変わる。ハード面はともかく、ドライバーの行動まで制御することは、とても踏み込める領域ではないと、ほとんどの技術者たちは考えていた。

関氏は、以前ユーザーを対象に実施した調査のことを思い出した。その調査データには、クルマや道路コンディションなどの条件がたとえ同じであっても、運転方法によって燃費に20%以上も差が出ることが、はっきりと示されていた。例を挙げれば、発進時のアクセル・ペダルの踏み過ぎ、一定速度で走っているときにアクセル・ペダルを踏んだり離したりを繰り返す、このような運転方法では燃料のロスが起こる。これが燃費の差となって表れるのだ。

関氏は、モード燃費を変えられない以上、実用燃費が向上する運転方法をドライバーに提案するシステムを組み込むしかない、と考えた。システムなら、プロトタイプを変更することなく、ソフトウエアの対応で実用燃費の向上が実現できるかもしれない。「何よりドライバーの行動を変えて、エコドライブを推進する機能は、新しい。これは絶対に実現してみたい」と、関氏は当時の意気込みを振り返る。

そうして関氏は、気概を込めてアイデアを1枚の企画書にまとめ、休み明け早々、プロジェクト・メンバーたちに発表したのだった。

2009年2月6日に発売された「インサイト」。写真は「INSIGHT L(ミラノレッド)」