地べたを這いずり回った経験から成長できる

──「BECK」の連載を続けた9年間は、かなり苦しかったですか?

ハロルド マンガを描くという仕事自体、辛いことがたくさんある職業ですし、9年分の大変さというのは、それ相応にあったと思います。しかし、それがひどく辛くて、嫌々やっていたというようなことは全くありません。音楽をどうマンガで表現するかという点ではかなり苦労しましたが、それは非常に取り組みがいのある苦労だったと思っています。

──連載中のインタビューで、「登場人物に地べたを這わせたい」とおっしゃっていたのが印象に残っています。

ハロルド 「BECK」は、音楽を通じて登場人物たちが成長していくという、ある意味で少年マンガの典型のような話なのですが、彼らが成長するためには、地べたを這いずり回る経験を当然しなくてはならないと考えました。それは、僕自身の中に地べたを這いずり回った時期があったからであり、その辛い経験から学んで成長できたという自負があったからです。

僕が「ゴリラーマン」という作品でデビューしたのは19歳の時ですが、それほど長い下積み生活を経験せずにマンガ家になれて、しかも作品もそれなりの支持を集めることができましたから、スタートはかなり順調だったんです。

しかし、「ゴリラーマン」の連載が続いていた頃、今後どうするのかということを考えたわけです。マンガ家として新しいことにチャレンジしていくのか、あるいは、「ゴリラーマン」にぶら下がって生きていくのか──。僕は、「『ゴリラーマン』のマンガ家」と言われ続けることだけは絶対に嫌だったので、この作品をやめて、別なものを始めよう。そう思ったわけです。

しかし、一度更地にしたところに新しいものを積み上げていくという作業は、本当に大変でした。「ゴリラーマン」の次に動物のマンガを描いてうまくいかず、その後に格闘技をテーマにした作品を描いて、これもあまり支持されず、まさに這いずり回るような時期がしばらく続きました。

そこからやっと抜け出せたと思ったのが、「ストッパー毒島」という野球マンガでした。あの作品で再び読者の支持を得ることができて、「ああ、俺は、マンガ家としてやっていくための術をようやく見つけつつある」と実感したのを覚えています。