やりたいことのすべてをコンクールにぶつけた

──その後、数多くのコンクールに参加されましたね。コンクールに何を求めたのでしょうか?

辻口 決められたことをきちんとこなすことが当時の僕の仕事でした。日常の労働の中では、自分がやりたいことは一切できなかったわけです。しかしコンクールなら、先輩も同僚も口を出すことができない自分だけの世界が表現できる。誰も触れることができない自分だけの感性を爆発させることができる。そう思って、自分がやりたいことのすべてをコンクールにぶつけたわけです。

あの頃の生活は、仕事とコンクールのための勉強がすべてでした。オフの日は、粘土細工の訓練をしたり、エアブラシの練習をしたり、作品のヒントを得るために美術館に通ったりしていました。

──パティシエに求められる一番の素養は何だと思われますか?

辻口 スイーツづくりが本当に好きなこと、それに尽きるでしょうね。誰よりもスイーツが好きだという思いが根底にないと、おいしいスイーツはつくれないと思います。それから、人に何かを与えることの喜びを知っていることも大切です。つまり、技術よりもまずはハートが大切ということです。ハートがない人は大体辞めていきますね。

もう一つ、これはどんな仕事にも当てはまると思うのですが、「素直である」ということも大事だと思います。ハスに構えたりせず、素敵なものは素敵、奇麗なものは奇麗、おいしいものはおいしいと素直に思えること。どんなに嫌いな奴がつくったスイーツでも、それがおいしければ素直においしいと認められること。そういう謙虚さが大切ですね。

──パティシエという仕事には豊かな感性が求められると思います。感性を磨くために日頃取り組んでいらっしゃることはありますか?

モンサンクレール

辻口 できるだけ自然と触れ合うようにしています。僕は石川県の出身で、鉛色の空とその下に広がる海を見て育ってきました。それは本当に奇麗なグレーの世界で、そこに太陽の光がすっと射す光景は、いつ見ても美しいと思うし、何度見ても感動します。そういう感動に身を委ねることで、気持ちをニュートラルにすることができるんです。

時間があれば、釣りに行ったり、海に潜ったり、山道を歩いたりするようにしているのも、自然に触れて、いつもとは違う世界を見て感動することが、スイーツづくりの感性を養ってくれると思うからです。